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Ⅵ 賃料増額請求は、どのような場合に認められるのか
昨今の物価高、不動産価格の高騰から、賃料を値上げしたいと考えている賃貸人の方が多くいらっしゃると思います。また、そうした賃貸人からの要求を受けて、困っている賃借人も数多くいらっしゃるものと思います。
こうした悩みを解決するための、賃料増額請求がどのような基準で認められるかを紹介します。
目次
1 賃料増額請求が認められる場合
賃料は賃貸人と賃借人との間の合意で決まるのが原則ですので、値上げをするには、まず賃借人との間で話し合いをすることになります。
話し合いにより賃借人と合意ができれば賃料の値上げができますが、合意ができなかった場合でも、借地借家法上、一定の要件を満たす場合は賃料増額請求が認められています。
借地借家法32条1項によると、従前の賃料が、不相当になったことが要件とされています。
・土地建物に対する租税その他の負担の増減
・土地建物の価格の上昇低下その他の経済事情の変動
・近傍同種の建物の賃料と比較
・その他の事情
上記の事情が考慮される期間は、最後に賃料の額が決められた時点以降となります。
「その他の事情」に関しては、個別の賃貸借契約における事情、すなわち、当初の賃料額決定の際に考慮された当事者間の個人的な事情や、その他、当初の賃料額を決定する際に重要な要素となった事項などが考慮されることになります。
ただし、一定の期間、建物の借賃を増額しない旨の特約がある場合には、その間は賃料増額請求ができないことになっています。
2 賃業増額請求の手続き
賃料増額請求の方法ですが、賃料増額請求権は形成権ですので、賃貸人から賃借人に対して賃料増額の意思表示をし、それが賃借人に到達すれば、将来に向かって適正賃料の範囲内で賃料増額の効果が生じます。必ずしも裁判を起こす必要はありません。
しかし、賃借人が賃料増額請求に応じず、従前の賃料しか支払わないような場合は、裁判所の手続を利用することになります。
賃料の増額請求事件については、調停前置主義がとられているので、原則として、いきなり訴訟を提起することはできず、まずは調停を申し立てることになりますが、調停が不成立となった場合は、最終的には訴訟で解決することになります。
訴訟の場合には、不動産鑑定費用(数十万円)等もかかってきますので、訴訟を提起して採算が取れるかどうかを十分に検討する必要があります。
3 裁判例から見る賃料増額が認められる可能性
賃料増減額請求については、多くの裁判例がありますが、個別事情が多く、一概にその傾向をいうことはできません。
商業用不動産の賃貸借契約締結当初に、賃貸人が賃借人の状況を考慮して、他のテナントと比較して、大幅に低い賃料を設定したこと、3年後に賃料増額を要求していたことを考慮して、50%を上回る増額を認めたものもあれば、同じ商業用不動産について、鑑定結果に基づき、増額を認めなかったものもあります。
上記1で上げた4つの要素が、それぞれのケースでいかに判断されるかが、増額が認められるか否かの分水嶺となっていますが、あえて一般的傾向を上げるとすれば、それは裁判所が弱い立場にある賃借人の事情を考慮する傾向があり、大幅な増額は、一筋縄では認めないということでしょう。
4 賃貸人、賃借人としての合理的な対応
以上は、普通賃貸借契約を前提しての話ですが、定期建物賃貸借契約を結んでいれば、更新ではなく再契約となりますので、賃料は大幅改定することも可能です。賃貸人としては、普通賃貸借契約から定期建物賃貸借契約への移行を進め、できるだけ普通賃貸借契約を減らしていくことが大切です。
ただし、以前から普通賃貸借契約を締結しており、その更新を継続しているテナントについては、賃料の増額を申し入れるしかありません。訴訟での解決には、長い時間がかかり、多額の費用が発生することを考えると、テナントと普段から意思疎通を行い、話し合いにより適正な増額での決着を図ることがよいでしょう。
賃借人としては、定期建物賃貸借契約を結んでいるのであれば、再契約時の設定賃料を受け入れるか否かの判断となり、高すぎるという場合には、他の物件を探していくことになります。
普通賃貸借契約を結んでいるのであれば、更新時に賃貸人から提示される増額の請求を受け入れるかどうかの判断となり、高すぎると考えれば、とりあえず拒否することは可能ですが、後日賃貸人から調停、訴訟を提起されてしまうと、それに時間を取られ、弁護士を雇えば費用もかかることになりますので、適正な増額であれば認めておいた方がよいのではないかと思います。
5 それでもうまくいかない場合には、弁護士に相談を
賃貸人と賃借人の間で、増額幅についてまったく合意が得られない場合には,調停や訴訟に発展することになります。場合によっては、立ち退きの問題となることもあります。
こうした裁判での手続きとなりますと、どのようにして自分に有利な主張をし、それを証拠で固めていくかは、やはり本職の弁護士に依頼した方がよいと思います。青山東京法律事務所には、不動産案件に強い弁護士が在籍していますので、お気軽にご相談ください。
監修者
植田 統
1981年、東京大学法学部卒業後、東京銀行(現三菱UFJ銀行)に入行。
ダートマス大学MBAコース留学後、ブーズ・アレン・アンド・ハミルトンで経営戦略コンサルティングを担当。
野村アセットマネジメントで資産運用業務を経験し、投資信託協会で専門委員会委員長を歴任。
レクシスネクシス・ジャパン株式会社の社長を務め、経営計画立案・実行、人材マネジメント、取引先開拓を行う。
アリックスパートナーズでライブドア、JAL等の再生案件、一部上場企業の粉飾決算事件等を担当。
2010年弁護士登録後、南青山M's法律会計事務所に参画。2014年に青山東京法律事務所を開設。2018年、税理士登録。
現在、名古屋商科大学経営大学院(MBA)教授として企業再生論、経営戦略論を講義。数社の社外取締役、監査役も務める。