中小企業の経営者が高齢化してきたことで、事業承継の動きが活発化しています。親から子へ引き継ぐ場合が依然として多いですが、最近では、第三者へ引き継ぐM&Aが非常に活発になっています。その理由は、中小企業の事業環境が悪化する中で、子が必ずしも親の会社に魅力を感じていないこと、競合会社で元気のいいところが積極的にM&Aを成長戦略として取り入れ始めたこと。M&Aの仲介業者がたくさん現れ、第三者を探してくることが容易になってきたこと、等があります。
①事業承継・М&Aその1:子への事業承継は税務問題
②事業承継・М&Aその2:第三者への事業承継はM&A
③事業承継・М&Aその3:第三者事業承継(M&A)プロセスにおける弁護士の役割
④事業承継・М&Aその4:M&Aの前提としての株主名簿
①事業承継・М&Aその1:子への事業承継は税務問題
事業承継の典型的パターンが、親から子へ引き継ぐという親族内承継です。この場合は、親子間で承継についての合意はスムーズに行われるのですが、株式の贈与時、相続時の税負担が問題となります。経営承継円滑化法が制定され税負担は猶予されることとなりましたが後で株式を売却した場合、議決権要件や雇用継続要件を満たさなくなった場合には、猶予された税額をすべて納めなければならないという大きなリスクがあります。
また、この制度を利用していくためには3年に1度継続届出書を提出しなければならず、これを忘れてしまうと猶予されていた税金を支払わなければならなくなるというリスクを考慮して、税理士が経営承継円滑化法の申請を受けたがらないという問題もあります。このため、現在でも株価の引き下げによる株式譲渡等が頻繁に行われているのですが、それには弁護士・税理士等の専門家のアドバイスが必要です。親子で承継をしていきたいという希望をお持ちの方は、できるだけ早い時期から、我々弁護士や税理士に相談し、その計画を練っていく必要があります。
②事業承継・М&Aその2:第三者への事業承継はM&A
第三者へ会社を譲渡することです。最近では、M&Aの仲介会社が増えてきて、後継者のいない会社に対して活発なアプローチをかけています。一方で、元気のいい会社は、M&Aを絶好の事業拡大の好機ととらえており、次から次へと買収を仕掛けています。売り手にとっても、買い手にとっても、M&Aは初体験という場合が多く、仲介会社の口車に乗せられて、高値の買収、若しくは、安値で売却をしてしまうという例も多々見受けられます。
我々のようなM&Aについての経験豊富な弁護士の意見を聞いてみることをお勧めします。
③事業承継・М&Aその3:第三者事業承継(M&A)プロセスにおける弁護士の役割
M&Aの買い手となる場合なら、この調査(デューディリジェンス、略してDDという)を担う弁護士・会計士を採用しなければなりません。逆に、売り手となる場合なら、相手方が採用した弁護士や公認会計士からの調査を受けることになりますので、買い手の調査に対応できる体制を整える必要があります。
また、最終契約書の締結の際には、それが売買の条件、売買後の相互の責任を定める重要なものであることになりますから、不利な文言が含まれていないかどうかを入念にチェックすることが必要です。M&Aの契約書には、皆さんがあまり聞いたことのない「表明保証条項」というものが定められていますが、これが極めて重要です。表明保証条項に規定するべきものを落としてしまうと、買い手は売り手の責任を追及できなくなり、定められた条項が守られない場合には、買い手が売り手に損害賠償を請求する権利が発生することになります。ですから、買い手にとっては、定めるべき条項の漏れがないか。売り手にとっては、定められている条項に違反する恐れはないか、弁護士に依頼して入念にチェックをしてもらう必要があります。
④事業承継・М&Aその4:M&Aの前提としての株主名簿
M&Aのやり方としては、事業譲渡とか、合併させるという方法もありますが、株式の譲渡が基本です。買い手が、売り手の社長とその一族から株式を100%買い取るのです。その前提として重要なのは、現在の株主がハッキリと記録されているかどうかです。買収される会社の中には、株主名簿がないというところもあります。また、対価の授受のないまま親族間で譲渡をしたことにして、株主名簿の名義を勝手に変更しているところもあります。
当事務所が担当してきた案件の中では、親族間で対価の支払いもないままに、勝手に株主名簿の書き換えをしてきたため、名義株として元の所有者に株主名簿を訂正したケースもありました。株式の譲渡、株主名簿の作成は、税理士に任せきりにするのではなく、ちゃんと法律の専門家である弁護士に頼んで法的に正確な手続きを踏んで行っていく必要があります。