建設業の特徴は、施主、下請会社、近隣住民と施工を進めていく過程での関係者が極めて多いことです。その上、大きな金額が絡んでいるので、一つのミスが多額の損害をもたらす可能性が高いということです。
建設業の第一の悩みは、工事代金をめぐるトラブルです。建設の現場では、施主から当初予定していない依頼がはいってきますが、文書化されていないため、後で追加代金を請求すると断られます。下請会社も工事を変更したりする場合が多いが、それも文書化されないため、後で追加工事代金をめぐってトラブルが起こります。
建設業の第二の悩みは、工事を進めていく過程での、近隣住民からの騒音や振動についてのクレームです。うまく対応しないと、マンションの管理組合とか町内会組織が工事をやめろと言ってきます。
建設業の第三の悩みは、瑕疵担保責任の問題です。完成した建物の床が水平でなかったなどと言う場合です。下請会社の工事が杜撰だったため、建物の不同沈下を起きるというケースもあります。
建設業の第四の悩みは、偽装請負の問題です。現場には、下請会社からの従業員が多数入り、元請会社の現場責任者の指揮命令下で工事を行います。これは、法的には偽装請負にあたり、下請会社は職業安定法と労働者派遣法の違反、元請会社はそのほう助という罪に問われます。労働災害が発生すれば、元請会社は下請会社の従業員に対して責任を負わされることもあり得ます。
こうした問題について、当事務所が対応してきた案件は以下のものです。
①建設業の解決事例1-施主への追加工事代金請求訴訟
②建設業の解決事例2-下請けとの追加工事代金をめぐるトラブル
③建設業の解決事例3-マンションリフォーム施工時の近隣住民とのトラブル
④建設業の解決事例4-地盤沈下による損害賠償請求
⑤建設業の解決事例5-下請けと偽装請負
①建設業の解決事例1-施主への追加工事代金請求訴訟
あるゼネコンが施主からホテル工事を請け負った。工事を始めてみると、施主が現場で、「デザインを変更してほしい、内装に仕様をいいものにしてほしい」と様々な要求を出してきた。中には、元請けであるゼネコンの担当者のいないところで、下請業者に直接指示を出す場面も多々あったようである。
その結果、ゼネコンの担当者の知らない工事が積み上がり、追加変更工事代金が多額になった。竣工後、これを施主に請求すると、「そんな指示をした覚えはない。証拠があるのか」とけんか腰で、全く支払をしようとしない。ゼネコンの担当者は、当事務所に相談してアドバイスを求めた。当事務所の弁護士は、訴訟を提起するためには証拠が必要であるので、現場で定期的に行っていた会議の資料とメールのやり取りを検索し、何とか証拠を集めるように依頼をした。
すると、断片的ではあるものの、多数のメールが発見され、施主が追加工事の指示をしていたことが明らかになって来たので、訴訟を提起した。施主は、明確な証拠があるものを除いては指示があったことを認めようとしなかったが、一連の経緯から裁判所も施主から指示があったのではないかという心証を持つに至った。その結果、裁判所から和解の勧めがあり、施主に対して請求額の半額以上を支払うよう指導があった。ゼネコンは当事務所の弁護士と相談し、早期解決と施主の支払い余力を勘案して、この和解を受け入れた。
②建設業の解決事例2-下請けとの追加工事代金をめぐるトラブル
ある建設会社は元請として、設備工事についてある業者と契約した。この業者が設備の設計をすることになっていたが、設計ができる人が社内にいなかったため、そのまま工事を進めた。
ゼネコンの担当者は何度も設計図面を作成し、工事内容を明らかにするように依頼したが、結局竣工直前まで設計図は出てこなかった。そのため、現場では、何が当初から計画されていた工事で、何が追加工事だかわからず、混乱を極めた。竣工後、設備業者は何か所もの追加工事をしたと言って、建設会社に対して多額の追加工事代金を請求する訴訟を提起してきた。
そこで、建設会社は、当事務所の弁護士に訴訟代理を依頼してきた。弁護士は、追加工事がどのような経緯で行われたのか、工事の初めから竣工までを時系列で整理し、建設会社の主張を裏付ける証拠をそろえておく必要があるとアドバイスした。
弁護士が、契約を分析すると、追加工事を行うにはそれを文書を取り交わすことが決められていることが判明した。その上、そもそも設備業者が設計図を作成せずに工事を勝手に進めた結果、何が追加工事であるかが甚だ不透明であるということもわかってきた。弁護士は、こうした調査の結果を答弁書、準備書面にまとめ、建設会社に対する報告のあった工事を除き、追加工事は存在しない旨を主張して応訴中である。
③建設業の解決事例3-マンションリフォーム施工時の近隣住民とのトラブル
建設会社はマンションリフォーム工事を請け負い、工事を開始したところ、階下の住民から工事の音がうるさいと言って、工事の中止を求めてきた。この住民は、マンションの管理組合の理事長に働きかけ、住民を集めて管理組合として工事の中止を求める決議を強行した。
建設会社は青山東京法律事務所の弁護士に相談し、マンションの騒音基準を守っているので、中止決議は受け入れられないことを理事長に申し入れ、話し合いで解決したいという希望を伝えた。すると、理事長は、騒音基準を守ること、工事時間を1日5時間までとすることを提案してきたので、建設会社はこれを受け入れて工事を行った。
④建設業の解決事例4-地盤沈下による損害賠償請求
建設会社は、大規模なビル新築工事を請け負ったが、内装工事は別業者への直接発注となった。建設会社は、工事現場に道路を設営し、水道や電気を引き、クレーンを設置し、冬場は除雪作業をする等、工事に関わる業者が共同で使用するインフラを整えた。内装工事業者は施主との特別な人間関係をもっており、建設会社の下請けには入らず、施主と直接契約を結んだ。
工事開始当初から、建設会社は内装業者に共益費を支払うように見積書を提出し、その確認を求めたが、内装業者はこれをかたくなに拒否し、工事を進めた。内装業社の作業員は、工事の間中、道路、水道、電気、クレーンを使用していた。工事が竣工し、建設会社は、再度内装業者へ共益費の負担を求めたが、拒否されたので、訴訟を提起した。
裁判所は、内装業者がインフラを使用していたことを認定し、建設会社は勝訴判決を得た。
⑤建設業の解決事例5-下請けと偽装請負
ある建設会社は、現場での手が足りなかったので、下請会社に工事を依頼し、従業員1名を派遣してもらった。その会社は社長1名に従業員2名の小会社であり、下請と言いながら、その実、人を派遣するビジネスを行っていた。工事の現場では、下請会社から来た従業員に、元請会社の現場監督が指示を出していた。
工事の終盤、下請会社の従業員が 3 階から落ち、全治 3ヶ月の大けがをしてしまった。元請会社の現場責任者は謝罪に出向いたが、従業員の親族から補償はどうなるのかと聞かれた。その場は切り抜けたものの、心配になり、青山東京法律事務所の弁護士に相談してきた。
弁護士は、元請会社と下請会社の実態は、偽装請負であり、被災した下請会社の従業員を直接雇用していた場合と同様の事業者責任を負わされることもあり得るので、下請会社とよく打ち合わせることが必要であると伝えた。幸い、下請会社は、自ら被災した従業員の治療や休業期間中の補償をする旨を申し出てきたので、元請会社は事なきを得た。