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企業法務(Ⅳ)-代表取締役の権限

代表取締役=社長となっている会社が多いものと思いますが、世の中には、会長や副社長が代表取締役となっている会社も多くあります。社長という地位は、会社法上に規定はなく、会社の定款で定められていますので、ここでは、会社法の見地から、代表取締役の権限を見ていきたいと思います。

 

まず、代表取締役の権限が、会社法にどのように規定されているのかを見ていきましょう。

 

(株式会社の代表)

第三百四十九条 取締役は、株式会社を代表する。ただし、他に代表取締役その他株式会社を代表する者を定めた場合は、この限りでない。

2 前項本文の取締役が二人以上ある場合には、取締役は、各自、株式会社を代表する。

3 株式会社(取締役会設置会社を除く。)は、定款、定款の定めに基づく取締役の互選又は株主総会の決議によって、取締役の中から代表取締役を定めることができる。

4 代表取締役は、株式会社の業務に関する一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限を有する。

5 前項の権限に加えた制限は、善意の第三者に対抗することができない。

 

 

(取締役会設置会社の取締役の権限)

第三百六十三条 次に掲げる取締役は、取締役会設置会社の業務を執行する。

一 代表取締役

二 代表取締役以外の取締役であって、取締役会の決議によって取締役会設置会社の業務を執行する取締役として選定されたもの

2 前項各号に掲げる取締役は、三箇月に一回以上、自己の職務の執行の状況を取締役会に報告しなければならない。

 

1. 代表権

代表取締役は会社を代表し、会社の業務に関する一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限を有しています。これは、代表取締役が対外的な関係において会社を代表し、かつ、その範囲が会社の業務のすべてに及ぶことを意味します。すなわち、会社は代表取締役という代表機関を通じて対外的な行為を行い、それが会社の行為として認識されることになります。

 

代表取締役は裁判上の行為をする権限を有することから、会社のために訴訟を提起し、訴訟代理人を選任し、審理において主張立証を行うといった各訴訟行為を行うことができますが、実際には訴訟を行う場合には弁護士に委任することが多いと思います。そして、弁護士を会社の訴訟代理人として選任するためには代表取締役によって作成された委任状が必要となります。

 

代表取締役は裁判外の行為をする権限を有していますので、対外的な法律行為として会社のために第三者と契約を締結することができます。会社が契約を締結する場合に、代表取締役の署名又は記名押印が行われるのはそのためです。

 

 

2. 業務執行権

代表取締役は会社法の規定により当然に業務執行権限を有します。業務執行とは、会社の事業計画の実行、製品の製造、サービスの提供、営業活動、人材管理、資金調達など各種の業務を行うことです。この業務執行には、対外的な行為と対内的(社内的)なものとがあり、対外的には代表権を行使し、対内的には業務執行取締役や使用人を統括し、会社の業務が適切に行われるように務めます。

 

 

3. 代表取締役の権限に対する内部的な制限

このように代表取締役の権限は包括的なものであり、その範囲は会社の業務の全てに及びます。そして、仮に会社が代表取締役の権限に何らかの制限を加えていても、そのような制限は、善意の第三者に対抗することができません。

 

例えば、社内の規定において、一定の金額以上の取引については取締役会の承認を得なければならないとされていたのに、代表取締役が取締役会の承認なしに第三者と取引を行ったとしましょう。これは会社が設定した制限に違反する行為ですが、会社法では代表取締役の権限に加えた制限は、善意の第三者に対抗することができないとされています。つまり、代表取締役の権限に加えられた制限について知らなかった第三者に対しては、会社は制限に違反したことをもって代表取締役の権限を否定することができないことになり、この結果、取引は有効となります。

 

 

4. 取締役会決議を欠く代表取締役の行為

会社法上、重要な財産の処分や多額の借財等の重要な業務執行の決定については、取締役会の決議が必要とされています。取締役会の決議を要するとされている事項について、そのような決議を経ないまま代表取締役が取引を行った場合、当該取引は法定の要件を満たしていないので、手続上の問題があるということになります。しかし、法定の要件を満たしていないことを理由に一律にそのような行為を無効としてしまうと、取引の安全を害し、相手方が不測の損害を被るおそれが生じます。

 

この点、判例は代表取締役が会社の業務に関して包括的な代表権を有していることを重視し、取締役会の決議を経ないで行った取引行為は原則として有効であって、ただ、相手方が取締役会の決議を経ていないことを知り、または、知り得べかりしときに限って無効であるとしています(ただし、判例は取締役会の決議を経ないで代表取締役が行った新株発行については無効とはならないとする。)。

 

 

5. 代表権を濫用した代表取締役の行為

代表取締役が代表権の範囲内で行った第三者との取引において、その真意は自己又は第三者の利益を図るためであったという場合、そのような取引は代表権を濫用して行ったものとなりますが、判例は、取締役会の承認決議を欠く場合と同様、相手方が代表取締役の真意を知りまたは知り得べかりしときに限り、無効であるとしています。

 

6. 代表取締役の選定

取締役会設置会社では、取締役会の決議によって取締役の中から代表取締役を選定しなければなりません。取締役会非設置会社では、定款、定款の定めに基づく取締役の互選又は株主総会の決議によって、取締役の中から代表取締役を定めることができます。しかし、代表取締役を定めないことも可能です(その場合すべての取締役が代表権を有する)。

 

7. 代表取締役であることの確認

会社の代表取締役の氏名・住所は登記事項とされています。そのため、会社の登記を確認することで代表取締役が誰であるか、どこに住んでいるのかを確認することができるようになっています。

監修者

植田統

植田 統

1981年、東京大学法学部卒業後、東京銀行(現三菱UFJ銀行)に入行。
ダートマス大学MBAコース留学後、ブーズ・アレン・アンド・ハミルトンで経営戦略コンサルティングを担当。
野村アセットマネジメントで資産運用業務を経験し、投資信託協会で専門委員会委員長を歴任。
レクシスネクシス・ジャパン株式会社の社長を務め、経営計画立案・実行、人材マネジメント、取引先開拓を行う。
アリックスパートナーズでライブドア、JAL等の再生案件、一部上場企業の粉飾決算事件等を担当。
2010年弁護士登録後、南青山M's法律会計事務所に参画。2014年に青山東京法律事務所を開設。2018年、税理士登録。
現在、名古屋商科大学経営大学院(MBA)教授として企業再生論、経営戦略論を講義。数社の社外取締役、監査役も務める。

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