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会社支配権とスクイーズアウト
大株主が少数株主から株式を強制的に買い取り、経営を自由に進めやすくするための方法として、スクイーズアウトがあります。意見の対立する少数株主に金銭等を交付して強制的に株式を買い取り、株主から排除し、シンプルな株主構成を実現するのです。
中小企業によるM&Aの多くは株式譲渡によって行われますが、買い手は売り手から全株式を買い取って完全子会社化します。しかし、一部の少数株主がこのM&Aに反対していると、これができなくなります。こうした時に利用されるのはスクイーズアウトです。
目次
Ⅰ スクイーズアウトのメリット
スクイーズアウトをしてしまえば、少数株主がいなくなるのですから、いろいろなメリットが得られます。主に、以下の5つのメリットが考えられます。
(1) 意思決定の迅速化
会社の経営を行う上で重要な決議を行うためには株主総会を開催しなければなりませんが、その決議に反対する少数株主がいる場合、重要な意思決定を行うまでに時間がかかります。あらかじめスクイーズアウトによって少数株主をなくして株式を大株主グループに集中させておけば、決議に時間がかかりません。
(2) 事務処理コスト削減
少数株主がいる限り、正式に株主総会招集手続きを踏まざるを得ないので、手間がかかります。株式をオーナー経営者1人、もしくは数名の大株主(意見が一致しているという前提)に集中できれば、株主総会を開催せずに書面の作成のみで省略することや、すぐに集まって株主総会決議を行うことが可能になります。
(3) 株式の分散防止
株主が亡くなると、その株式は相続財産となって相続人が新たな株主となっていきます。時間がたつと、株式が多数の相続人に分散してしまう恐れがあります。意見がばらばらでまとまりがつかなくなったり、反対派株主が出てくる恐れも出てきます。スクイーズアウトによって株式を集中させておけば、このようなリスクを回避できます。
(4) 訴訟リスク削減
株主の中に主要株主グループに反対する少数株主がいると、会社を運営している取締役等は常に少数派から責任を追及されるリスクにさらされます。また、少数株主に配慮しすぎるあまり、かえって経営上正しい判断が行えないことも出てきます。スクイーズアウトによって少数株主をなくしておけば、訴訟リスクが削減されて会社経営が円滑に進みます。
(5) 税務上のメリット
大株主が会社の場合、スクイーズアウトによって少数株主をなくし完全子会社化してしまえば、連結納税制度が選択できるようになります。連結納税を選択すると親会社と子会社の利益を損益通算することが可能になり、子会社が赤字であれば、その分を親会社の黒字から差し引いた上で税額を算定できるようになります。親子間の損益通算により節税が可能になるのです。
Ⅱ スクイーズアウトの手法
スクイーズアウトの手法としては、次の4つがあります。
(1) 株式併合
株式併合とは、複数の株式を1株にまとめる手法です。例えば併合比率を4:1とし、3株以下の株主の保有株式を1株未満の端株にします。少数株主の持ち株が1株未満の端株になると、株式としての効力を失い、株主の権利を行使できなくなります。端株となった株式は、複数の株主が所有している端株を合算して1株になった時点で、会社が時価で買い取り、その対価を端株主に按分します。
手続きとしては、以下のようなものとなります。
① 取締役会の開催
取締役会を開催し、株式合併の決議と株主総会の招集決議を行う。決議後は、株式の併合に関する概要や株式の併合割合、最終年度の財務関係書類などを会社本店に据え置き、株主総会開催の2週間前(もしくは株主への通知・公告の日のいずれか早い日)から6ヶ月間開示。
② 株主総会の招集通知
株主総会開催の2週間前までに、株主に対して株主総会招集の通知を発送。
③ 株主総会の開催・株式併合の決議
株主総会の特別決議。出席した株主の議決権数の2/3以上の賛成が必要。
④ 株主への個別通知
株式併合の効力が発生する日の20日前までに、全株主に対して株式併合に関する詳細を記載した通知書を送付。
⑤ 裁判所への売却許可の申し立て
株式併合により生じた1株未満の端株を買い取るために、裁判所に売却許可の申し立て。
⑥ 株式併合の効力発生・株式の買い取り
株主総会にて決議された効力発生日が到来し、株式併合の効力が発生。裁判所から売却を許可されている場合は、端株を会社が買い取り、少数株主のスクイーズアウトが完了。
(2)株式等売渡請求
対象会社の議決権の90%以上を保有する特別支配株主は、対象会社の承認を得たうえで、他の株主の株式を強制的に取得することができます。株主総会における決議を必要とせず、対象会社からの承認は、取締役会設置会社であれば取締役会決議、取締役会非設置会社では過半数の取締役の合意で実行できます。シンプルでありスピーディな手続きです。
(3) 株式交換を用いた手法
親会社が子会社を完全子会社化する対価として、子会社の株主に親会社の株式を交付します。子会社の株主が親会社の株主になることを避け、完全にスクイーズアウトするためには、株式交換の対価を現金で支払うか、株式交換後に親会社が株式併合をして端株を買い取る方法などを用います。
(4) 全部取得条項付種類株式を用いた手法
全部取得条項付種類株式とは、種類株式の一種ですが、株主総会の特別決議により、株式のすべてを強制的に取得することが可能です。この場合は特定の株主に限定して株式を買い上げることはできないので、一旦全発行済株式を全部取得条項付種類株式に変更し、普通株式を対価として買い上げます。その時、少数株主に株が残らないように比率を調整すれば、少数株主はいなくなるというわけです。
以上4つの方法をご紹介しましたが、どの手法を利用するかは、その会社の置かれた状況によって決まってきますので、慎重な検討が必要です。
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クライアントの皆さんにとっては、事業承継もM&Aも初めての経験ですので、全体像を理解していただくところから始め、その具体的方法論や各方法のメリット・デメリットについても、丁寧にご説明させていただいています。
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監修者

植田 統 弁護士(第一東京弁護士会)
東京大学法学部卒業、ダートマス大学MBA、成蹊大学法務博士
東京銀行(現三菱UFJ銀行)で融資業務を担当。米国の経営コンサルティング会社のブーズ・アレン・アンド・ハミルトンで経営戦略コンサルタント。
野村アセットマネジメントでは総合企画室にて、投資信託協会で専門委員会委員長を歴任。その後、レクシスネクシス・ジャパン株式会社の日本支社長。
米国の事業再生コンサルティング会社であるアリックスパートナーズでは、ライブドア、JAL等の再生案件を担当。
2010年弁護士登録。南青山M's法律会計事務所を経て、2014年に青山東京法律事務所を開設。2018年、税理士登録。
現在、名古屋商科大学経営大学院(MBA)教授として企業再生論、経営戦略論の講義を行う他、Jトラスト株式会社(東証スタンダード市場)等数社の監査役も務める。