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Ⅰ 解雇規制
経済協力開発機構(OECD)の2019年調査で、日本は11位。対象となった37カ国の平均よりも正社員を解雇しやすい国という結果が出ました。
最も解雇しにくい国は、チェコ。2位はトルコ。3位はオランダ。他のG7諸国の結果を見ていくと、イタリアが5位、フランスが9位。ドイツが21位。イギリスが33位、カナダが38位。アメリカが40位。
先進国の中で見ると、日本の解雇のしやすさは中位であるが、ヨーロッパ諸国に比べれば、はるかに解雇のしやすい国という結果です。
これは、大方の日本では労働者を解雇できないという“常識”の正反対であるが、日本の労働法制はどうなっているのでしょうか。
目次
Ⅰ 日本の労働法制
日本の民法では会社は2週間前に申し出れば正社員を自由に解雇できることになっていました。ところが、戦後の1960~70年代にかけて民法を封じる法理が形づくられ、解雇権濫用法理が形づくられたのです。
その法理は2004年の労働基準法改正で初めて法律の条文になりました。「合理的な理由がなく、社会通念に反する解雇は無効」という原則です。これだけでは、実務上のどういう解雇が有効で、どういう解雇が無効になるかが明らかでなく、経営側からみれば解雇の判断を躊躇してしまうことになります。
しかしながら、OECDは日本の不当解雇の補償が「20年勤務で月収の6カ月分」と認定し、また、裁判外の和解が多く、復職がまれであることも勘案して、日本の解雇規制が比較的緩いという判断を下したのです。
Ⅱ 外資系企業の日本での解雇
この調査結果が、実務を担当する弁護士の目から見ても、順当なものに思えます。
なぜなら、日本に存在するアメリカ企業等では、パフォーマンスの悪い社員の解雇が、当たり前のように行われているからです。このような場合、6か月程度の解雇手当(セべランス・ペイメント)が支払われます。解雇される日本人社員も文句を言うことなく、自然と解雇を受けいれています。
日本企業との違いは、アメリカ企業等では、解雇までにしっかりとしたプロセスが踏まれていることです。パフォーマンスが悪ければ、ウォーニングを出し、改善点を明らかにして、その後3ケ月とか6か月で、改善したかどうかを再度評価します。この再評価の結果も芳しくなければ、ファイナル・ウォーニングを出して、さらに3,4か月パフォーマンスを観察し、それでもダメな場合には解雇するというプロセスが整備されています。
Ⅲ 日本企業の解雇プロセスの不十分さ
これに対して、多くの日本企業では、そもそも人事考課があやふやで、上司が部下に5点満点で3,4の点数をつけることが多いようです。満点の5をつけることもほとんどなければ、1,2の落第点をつけることもほとんどありません。組織の和を重んじるあまり、適正な人事考課ができなくなっているのです。
だから、本当はパフォーマンスが悪い人も合格点の3とかをもらっており、改善を求められることがありません。
解雇が起こるのは、会社の業績が大幅に悪化し、人員削減をしなければならなくなった時で、その時初めて上司は誰が必要で、誰がいなくてもよいかを考えることになります。
この時初めてパフォーマンスの悪い社員があぶり出され、解雇対象となります。これでは、いきなりの解雇であり、「合理的な理由がなく、社会通念に反する」解雇であることになってしまいます。
つまり、日本企業が、比較的緩い解雇規制を利用していくためには、労働法に沿った、適正な人事考課、改善プロセスの整備が必要だということです。
Ⅳ 労働問題のご相談は青山東京法律事務所へ
青山東京法律事務所は、多くの顧問先を抱えており、頻繁に労働問題の相談を受けています。問題社員の解雇、業績不振による整理解雇、懲戒処分の実施、残業代請求への対応等、実に多くの経験をしてきています。
労働問題は、労働者にとっては生活の糧がかかった問題であり、企業にとっても、自社の競争力に関わる重要問題ですので、できるだけ穏便な解決を図ることが望ましいことは言うまでもありません。しかしながら、労働者の立場に立っても、会社側の立場に立っても、筋を通さなければいけない場面もあり、ケース・バイ・ケースで適切な判断をしていくことが求められています。
労働問題でお悩みの方は、経験豊富な青山東京法律事務所へ是非ご相談ください。
監修者
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植田 統 弁護士(第一東京弁護士会)
東京大学法学部卒業、ダートマス大学MBA、成蹊大学法務博士
東京銀行(現三菱UFJ銀行)で融資業務を担当。米国の経営コンサルティング会社のブーズ・アレン・アンド・ハミルトンで経営戦略コンサルタント。
野村アセットマネジメントでは総合企画室にて、投資信託協会で専門委員会委員長を歴任。その後、レクシスネクシス・ジャパン株式会社の日本支社長。
米国の事業再生コンサルティング会社であるアリックスパートナーズでは、ライブドア、JAL等の再生案件を担当。
2010年弁護士登録。南青山M's法律会計事務所を経て、2014年に青山東京法律事務所を開設。2018年、税理士登録。
現在、名古屋商科大学経営大学院(MBA)教授として企業再生論、経営戦略論の講義を行う他、Jトラスト株式会社(東証スタンダード市場)等数社の監査役も務める。