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取締役会の運営(Ⅳ)-社外取締役を設置する意味
目次
1.社外取締役設置の義務化
改正会社法の一部が令和3年3月1日より、社外取締役の選任が義務化されました。
具体的には、改正会社法327条の2において、公開会社かつ大会社である監査役会設置会社が有価証券報告書提出会社であるとき(以下「上場会社等」といいます。)は、社外取締役を置くことが義務づけられ、これに伴い、上場会社等が社外取締役を置いていない場合には、その事業年度に関する定時株主総会において社外取締役を置くことが相当でない理由を説明する義務(改正前会社法327条の2)は削除されました。
2. 社外取締役設置義務化の背景
社外取締役の設置が義務化された背景には、健全かつ効率的なコーポレート・ガバナンスの確立のためには、社外取締役を活用した企業経営監視が有用であるという考え方があるものと思われます。
実際、東京証券取引所において社外取締役を1名も選任していない上場会社の割合は、平成24年に45.3%、平成26年に35.6%であったところ、平成30年には2.3%、令和2年には1.1%と、社外取締役の設置は大きく普及してきています。
3.社外取締役の役割
社外取締役は,取締役として会社の経営を担いながら,社外の人間として経営陣から独立して会社の意思決定や取締役の業務執行を監督する役割を担っています。
具体的には,①自らの専門的な知見に基づき,会社の持続的な成長を促すとともに,中長期的に企業価値を向上できるように,経営方針等について助言を行うという役割,②経営陣の選任解任について意見を述べるとともに,取締役会の重要な意思決定に関与して経営を監督するという役割,③会社と経営陣や支配株主等との利益相反を監督するという役割,④経営陣・支配株主から独立した立場で,少数株主をはじめとする株主の意見を取締役会に適切に反映させるという役割です。
4.社外取締役の実態
上記のような役割が期待されているのですが、経営陣の監督をできるような人が選ばれていないというのが現状です。ビジネス誌や週刊誌で批判されているように、企業が女性の取締役比率を上げるために女子アナ等を社外取締役に任命する、財閥系の企業が相互に経営者のOBを社外取締役として起用することで厳しい批判の目を免れている、官僚の天下り先として利用されている等々が実態です。本来、社外取締役には財務三表を読み解く力が求められますが、実際には財務会計の知識に乏しい人も多いという指摘もなされています。この結果、取締役会の議論も経営陣主導で展開され、経営に対するチェック機能が十分に働いていない会社が多いようです。社外取締役を招致する経営陣も、むしろこうした状況(経営に深く切り込んでこない状況)を好ましいとしているようです。
監修者
植田 統
1981年、東京大学法学部卒業後、東京銀行(現三菱UFJ銀行)に入行。
ダートマス大学MBAコース留学後、ブーズ・アレン・アンド・ハミルトンで経営戦略コンサルティングを担当。
野村アセットマネジメントで資産運用業務を経験し、投資信託協会で専門委員会委員長を歴任。
レクシスネクシス・ジャパン株式会社の社長を務め、経営計画立案・実行、人材マネジメント、取引先開拓を行う。
アリックスパートナーズでライブドア、JAL等の再生案件、一部上場企業の粉飾決算事件等を担当。
2010年弁護士登録後、南青山M's法律会計事務所に参画。2014年に青山東京法律事務所を開設。2018年、税理士登録。
現在、名古屋商科大学経営大学院(MBA)教授として企業再生論、経営戦略論を講義。数社の社外取締役、監査役も務める。