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取締役会の運営(Ⅴ)-監査役の役割

1.監査役の職務

監査役は株主総会で選任され、取締役の職務の執行を監査することと監査報告を作成することがその職務です。監査には、業務監査と会計監査とが含まれます。

業務監査とは、取締役の職務の執行が法令・定款を遵守して行われているかどうかを監査することで、一般に適法性監査と呼ばれています。

会計監査は、定時株主総会に計算書類が提出される前に行われ、株主総会の招集通知時に、会計監査と業務監査の結果が記載される監査役会の監査報告が株主に提供されます。2002年の商法改正で導入された連結計算書類についても監査が行われ、監査役の監査の結果が定時株主総会に報告されます。

大会社(最終事業年度の貸借対照表上の資本金の額が5億円以上または負債の総額が200億円以上の株式会社)では、監査役制度が強化されており、大会社かつ公開会社であれば、監査役は3人以上必要、かつ常勤の監査役が最低1人必要、社外監査役(その定義は後述)が監査役の数の半数以上必要であるというように要件が加重されています。そして監査役会が設置される。

 

2.監査役の選任

監査役は、株主総会の決議で選任されます。選任決議の定足数は総株主の議決権の3分の1を下回ることができない(取締役の選任決議と同じ)とされており、取締役と同様の欠格事由があるほか、監査役はその会社または子会社の取締役・支配人その他の使用人、子会社の執行役を兼務することはできないとされています。

監査役は、他の監査役の人選につき株主総会で意見を述べる権利を有しており、監査役を辞任した者は、その後最初に招集される株主総会に出席して意見を述べる権利を有しています。そして、監査役会は、株主総会に提出される監査役の選任議案について同意権を有し、また監査役の選任議案の提出権を有しています。そして、監査役会は、会計監査人の選任・解任・不再任議案の内容を決定し、取締役が会計監査人の報酬を定める際の同意権を有しています。

 

3.監査役の任期と報酬

監査役の任期は、取締役(2年)と異なり4年です。

報酬は、取締役の報酬と別に、定款または株主総会決議で決定されることになっています。各監査役の個別の報酬について定款または株主総会決議がないときは、各監査役の報酬は株主総会決議の範囲内において監査役の協議によって定め、監査役は、株主総会において、監査役の報酬について意見を述べることができるとされています。

 

4.監査役の独立性

大会社かつ公開会社では、監査役は3人以上であることを要し、かつ1人以上の常勤の監査役を定めなければならないことになっています。また、監査役の半数以上は、就任前の10年間は会社またはその子会社の取締役・執行役・支配人その他の使用人であったことがないこと、会社の親会社の取締役・監査役・執行役・支配人その他の使用人でないこと、会社の取締役・支配人その他の重要な使用人の配偶者または2親等内の親族でないこと等の法定の要件を満たした者でなければならない(社外監査役)となっています。そして監査役会が設置されます。

 

5.監査役の権限

監査役には、職務を遂行するためにさまざまな権限が与えられています。

(1)報告要求・調査

監査役は、いつでも取締役および使用人に対して事業の報告を求め、また会社の業務・財産の状況を調査することができます。取締役は、会社に著しい損害を及ぼすおそれのある事実を発見した場合には、監査役からの要求がなくても、直ちに監査役会にそれを報告しなければならなりません。また、監査役は、一定の要件のもとで子会社に対しても報告を要求し、その業務・財産の状況を調査する権限を有します。なお、監査(調査を含む)に要した費用は会社が負担することになっています。

 

(2)取締役の違法行為の阻止

監査役は、取締役会で違法または著しく不当な決議がされることを防止するために、取締役会のすべての会合に出席しなければならず、必要な場合には意見を述べなければなりません。また、取締役会の場に限らず、取締役の不正行為またはそのおそれ、法令・定款違反または著しく不当な事実があると認めた場合には、遅滞なく取締役会に報告することを要します。必要があれば取締役会の招集を求め、または自ら招集することができます。そして、そのような決議または法令・定款違反の行為を防止または是正することができなかった場合でも、取締役が株主総会に提出する議案・書類に法令・定款違反または著しい不当性があれば、株主総会にその調査の結果を報告しなければなりません。また、取締役の法令・定款違反の行為の結果、会社に著しい損害が生じるおそれがある場合には、取締役に対してその差止めを請求することができます。

 

(3)会社・取締役間の訴訟

会社・取締役間の訴訟は、監査役が会社を代表します。このため、会社が取締役を訴えるかどうかの判断も監査役が決定します。また、取締役に対する株主からの提訴請求を受けるのも監査役です。監査役には、株主代表訴訟が提起された際に、会社が被告取締役側に補助参加することについての同意権が与えられており、また取締役の責任軽減(一部免除)に関する同意権が与えられています。

 

(4)会計監査

会計監査とは、計算書類およびその附属明細書を監査することです。大会社かつ公開会社は、株主総会において公認会計士または監査法人を会計監査人として選任しなければなりませんが、選任議案の内容は監査役会に決定権限があります。そして、大会社では、会計監査は第1次的には会計監査人が実施し、その監査報告は監査役会と取締役会に提出されます。監査役は、会計監査人の監査の方法・結果の相当性を判断します。もし相当でないと認めた場合は、自ら監査したうえで、その結果について監査報告に記載します。

定時株主総会の招集通知時には監査報告が提供され、会計監査および業務監査の結果が記載されています。監査報告は大会社かつ公開会社では監査役会が作成しますが、各監査役は自分の意見を付記することができます。

監査役は、善管注意義務違反その他の任務懈怠があれば会社に対して損害賠償責任を負うほか、職務の遂行に際して悪意または重過失があった場合または監査報告に虚偽記載があった場合には、第三者に対しても損害賠償責任を負います。

監修者

植田統

植田 統

1981年、東京大学法学部卒業後、東京銀行(現三菱UFJ銀行)に入行。
ダートマス大学MBAコース留学後、ブーズ・アレン・アンド・ハミルトンで経営戦略コンサルティングを担当。
野村アセットマネジメントで資産運用業務を経験し、投資信託協会で専門委員会委員長を歴任。
レクシスネクシス・ジャパン株式会社の社長を務め、経営計画立案・実行、人材マネジメント、取引先開拓を行う。
アリックスパートナーズでライブドア、JAL等の再生案件、一部上場企業の粉飾決算事件等を担当。
2010年弁護士登録後、南青山M's法律会計事務所に参画。2014年に青山東京法律事務所を開設。2018年、税理士登録。
現在、名古屋商科大学経営大学院(MBA)教授として企業再生論、経営戦略論を講義。数社の社外取締役、監査役も務める。

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