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建設業の法律問題(Ⅰ)-下請業者に下請法の適用はあるのか
建設業では、多くの工事は元請業者が引き受けた契約を多数の下請業者を使って施工していくという構造を取っています。したがって、下請法が当然に適用されるのではないかと思いますが、実は多くの場合は、建設業法が適用され、下請法は適用されません。ここでは、どのような場合に建設業法が適用されるのか、どのような場合に下請法が適用されるのかについて説明したいと思います。
目次
1 建設業に関する下請法の規定
下請法第2条4項は、次のように定めています。
「この法律で「役務提供委託」とは、事業者が業として行う提供の目的たる役務の提供の行為の全部又は一部を他の事業者に委託すること(建設業(建設業法(昭和二十四年法律第百号)第二条第二項に規定する建設業をいう。以下この項において同じ。)を営む者が業として請け負う建設工事(同条第一項に規定する建設工事をいう。)の全部又は一部を他の建設業を営む者に請け負わせることを除く。)をいう。」
カッコ内を飛ばして読んでみると、「建設業法を営む者が業として請け負う建設工事の全部又は一部を他の建設業を営む者に請け負わせることを除く。」となり、建設業を営む者が、業として請け負った「建設工事」を、他の建設業を営む者に請け負わせる場合には、下請法の適用は無いとなっています。そして、この「建設工事」を委託する場合には、別の法律である「建設業法」が適用されることになります。
一方、「建設工事」ではないその他の取引については、たとえ建設業を営む者が他の建設業を営む者に委託をしたとしても、建設業法の適用はなく、別途下請法の適用の対象となるかどうか、資本金要件や取引内容などから判断する必要があります。
2 「建設工事」とは何か
建設業法第2条1項は、「この法律において「建設工事」とは、土木建築に関する工事で別表第一の上欄に掲げるものをいう。」と定めており、別表第一のリストに挙がっている工事には下記の全部で29種類のものです。つまり、これにしか建設業法は適用されません。
記
土木一式工事、建築一式工事、大工工事、左官工事、とび・土工・コンクリート工事、石工事、屋根工事、電気工事、管工事、タイル・れんが・ブロック工事、鋼構造物工事、鉄筋工事、舗装工事、しゅんせつ工事、板金工事、ガラス工事、塗装工事、防水工事、内装仕上工事、機械器具設置工事、熱絶縁工事、電気通信工事、造園工事、さく井工事、建具工事、水道施設工事、消防施設工事、清掃施設工事、解体工事
以上
3 「建設工事」に当たらない取引
「建設工事」に当たらない契約・取引の具体例としては、下記の製造委託、情報成果物作成委託等が挙げられます。
記
製造委託(下請法第2条1項)
・建設業者が建設資材の販売も手掛けており、その建設資材の製造を下請事業者に委託する場合
・建設業者が、自身が建設工事などに使用する建設資材(自家使用する建設資材)を自身で製造していた場合に、その製造を下請事業者に委託する場合
情報成果物作成委託(下請法第2条3項)
・建設業者が、設計や図面・構造計算書などの作成を請け負った場合に、その設計等を下請事業者に委託する場合
以上
上記の「製造委託」と「情報成果物作成委託」は下請法の類型には当てはまるので、資本金要件等を満たせば、下請法の適用があることになります。
その他にも、建築確認の申請の代行、測量、工事現場での交通整理、建設機器類の保守点検などの業務について他社に委託する場合には、建設業法の適用はなく、下請法の適用が問題となり得ます。
監修者
植田 統
1981年、東京大学法学部卒業後、東京銀行(現三菱UFJ銀行)に入行。
ダートマス大学MBAコース留学後、ブーズ・アレン・アンド・ハミルトンで経営戦略コンサルティングを担当。
野村アセットマネジメントで資産運用業務を経験し、投資信託協会で専門委員会委員長を歴任。
レクシスネクシス・ジャパン株式会社の社長を務め、経営計画立案・実行、人材マネジメント、取引先開拓を行う。
アリックスパートナーズでライブドア、JAL等の再生案件、一部上場企業の粉飾決算事件等を担当。
2010年弁護士登録後、南青山M's法律会計事務所に参画。2014年に青山東京法律事務所を開設。2018年、税理士登録。
現在、名古屋商科大学経営大学院(MBA)教授として企業再生論、経営戦略論を講義。数社の社外取締役、監査役も務める。