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相続・遺産分割‐相続財産の評価
相続財産の評価は相続開始時点の時価で評価します。つまり、故人が亡くなった日の時価で評価します。現金預貯金は金額がそのまま時価となるので難しくありませんが、不動産や株式を評価するのは簡単ではありません。
そのため、国税庁では相続財産の評価方法について「財産評価基本通達」で定めています。以下では、その骨子を簡単に説明します。相続税の評価は専門性が高いものですので、よくわからない点については、相続税の専門家への相談をお勧めします。
目次
1 土地の評価方法
まず、自分で使用する土地、自用地の評価について、説明します。
① 自用地の評価
土地の相続税評価方法には、路線価方式と倍率方式の2つがあります。路線価方式とは、路線価が定められている地域の評価方法です。路線価とは、その道路に面する土地1㎡あたりの評価額のことで、国税庁のホームページで確認することができます。
路線価×土地の面積=土地の相続税評価額
例えば、土地の面積が200㎡で、その土地が面する道路の路線価が50万円の場合、50万円×100㎡で土地の相続税評価額は5000万円となります。
倍率方式とは、路線価が定められていない土地の評価方法です。倍率方式で土地を評価する場合は、その土地の固定資産税評価額に一定の倍率を乗じて計算します。この倍率は国税庁のホームページで確認することができます。
固定資産税評価額×倍率=土地の相続税評価額
例えば、土地の固定資産税評価額が2000万円で、倍率が1.2倍の場合、2000万円×1.2で土地の相続税評価額は2400万円となります。
② 土地を貸していた場合の評価方法(貸宅地の評価方法)
被相続人が所有していた土地に第三者が家や事務所を建てていた場合、その土地を「貸宅地」と言います。貸宅地には借地権(借主がその土地に建物を建てて自由に使える権利)が設定されているので、その評価が低くなります。
自用地評価額×(1-借地権割合)=貸宅地の相続税評価額
ここにいう借地権割合とは、自用地評価額に占める借地権の割合です。国税庁のホームページで確認することができますが、例えば、借地権割合が70%等と定められており、非常に高い割合となっているので、貸宅地の評価は大きく下がります。
③ 土地を借りていた場合の評価方法(借地権の評価方法)
被相続人が、第三者が所有する土地を借りて、その土地に家や事務所を建てていた場合、被相続人は借地権を持っていたことになります。
自用地評価額×借地権割合=借地権の相続税評価額
2の場合の逆のケースですが、例えば借地権割合が70%であったとすれば、自用地評価額が1000万円の場合、借地権の相続税評価額は700万円と高額になります。
④ 賃貸物件が建っている土地の評価方法(貸家建付地の評価方法)
被相続人が所有していた土地に貸家・賃貸アパート・賃貸マンションなどの賃貸物件を建てていた場合、その土地を「貸家建付地」と言います。なお、これは貸家・賃貸アパート等を被相続人が所有していた場合で、賃貸物件の所有者が第三者であった場合には、上記2の貸宅地の問題となります。
自用地評価額×(1-借地権割合×借家権割合×賃貸割合)=貸家建付地の相続税評価額
借家権割合とは、建物の借家権の割合のことで全国一律30%と定められています。賃貸割合とは、貸し出されている部屋の床面積の割合です。貸し出されている部屋数の割合ではありません。
自用地評価額が1000万円、借地権割合が70%、借家権割合が30%、賃貸割合が50%の場合、1000万円×(1-0.7×0.3×0.5)で貸家建付地の相続税評価額は895万円となります。
2 家屋の評価方法
① 自己使用
家屋の相続税評価額は固定資産税評価額となりますので、自己使用のものであれば非常にシンプルです。
固定資産税評価額×1.0=家屋の相続税評価額
② 賃貸物件の建物の評価方法
貸家・賃貸アパート・賃貸マンションなど、以下の算式で計算します。
建物の固定資産税評価額×(1-借家権割合×賃貸割合)=建物の相続税評価額
例えば、賃貸アパートの固定資産税評価額が1億円で、借家権割合が30%、賃貸割合が60%の場合、1億円×(1-0.3×0.6)で賃貸アパートの建物の相続税評価額は88200万円となります。
3 株式の評価方法
① 上場株式の評価方法
上場株式の価格は日々変動していますので、上場株式の相続税評価額は以下の4つの価格のうち最も低い価格を採用することになっています。
・相続が発生した日の最終価格
・相続が発生した月の最終価格の平均額
・相続が発生した月の前月の最終価格の平均額
・相続が発生した月の前々月の最終価格の平均額
なお、上場株式が複数ある場合は株式ごとに最も低い金額で評価できることになっています。最終価格は、日本取引所グループ等が公表しています。
② 非上場株式の評価方法
上場していない株式には市場価格がないため、会社の財務状況から株価を評価することになっています。大会社の場合は類似業種比準価額方式、小会社の場合は純資産価額方式、中会社の場合は類似業種比準価額方式と純資産価額方式を併用する等と税法で定められていますが、複雑なので、税理士に計算してもらうのがよいと思います。
4 生命保険の評価方法
生命保険は、指定された受取人の固有財産ですので、民法上の相続財産ではありません(遺産分割の対象にはならないということです)が、相続税を計算する際には相続財産とみなします(契約者である被相続人が保険料を負担していたためです)。このように被相続人が亡くなったことで相続人のものになった財産を「みなし相続財産」と言います。生命保険金等には相続税の非課税枠があります。
500万円×法定相続人の数=生命保険金等の非課税額
被保険者が被相続人であれば、受取人がもらった保険金額が生命保険の評価となりますが、被保険者が被相続人でない場合には、生命保険の相続税評価額は解約返戻金の額となります。解約返戻金とは、生命保険を解約した場合に払い戻されるお金です。この金額は、生命保険会社に問い合わせると教えてもらえます。
5 退職手当金等の評価方法
退職手当金等も生命保険金等と同じく、みなし相続財産となります。退職手当金等にも相続税の非課税枠があり、以下の算式で計算します。
退職手当金等の非課税額の計算式
500万円×法定相続人の数=退職手当金等の非課税額
以上、簡単に相続財産の評価について説明してきましたが、遺産の相続税評価は専門的知識を要し、非常に難しいものですので、簡単な相続を除けば、税理士等の専門家に依頼することをお勧めします。
監修者
植田 統
1981年、東京大学法学部卒業後、東京銀行(現三菱UFJ銀行)に入行。
ダートマス大学MBAコース留学後、ブーズ・アレン・アンド・ハミルトンで経営戦略コンサルティングを担当。
野村アセットマネジメントで資産運用業務を経験し、投資信託協会で専門委員会委員長を歴任。
レクシスネクシス・ジャパン株式会社の社長を務め、経営計画立案・実行、人材マネジメント、取引先開拓を行う。
アリックスパートナーズでライブドア、JAL等の再生案件、一部上場企業の粉飾決算事件等を担当。
2010年弁護士登録後、南青山M's法律会計事務所に参画。2014年に青山東京法律事務所を開設。2018年、税理士登録。
現在、名古屋商科大学経営大学院(MBA)教授として企業再生論、経営戦略論を講義。数社の社外取締役、監査役も務める。