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事業承継・M&A-黄金株と事業承継
黄金株とは、株主総会決議事項または取締役会決議事項について拒否権をもつ株式のことです。
どのような決議事項について拒否権を持たせるかは、株主総会決議で自由に定めることができます。取締役の選任や解任、取締役の報酬の決定、会社組織の変更、事業の譲渡、合併などといった様々な決議事項について、拒否権を持つように設計することが可能です。
つまり「拒否権付種類株式」と言った方が、その中身を表しているのではないかと思うのですが、英語ではgolden shareと呼ばれているため、日本では黄金株と呼ばれるようになったのです。
黄金株をうまく使えば、円滑な事業承継が可能になります。例えば、親から事業を引き継ぐ子へ株式の大部分を贈与しますが、親から見ると子が暴走することに不安あるという場合です。子が勝手に取締役を選任したり解任したりできないように、親が拒否権を持ち続けるということが実現できます。
最近では、一旦子に社長の座を譲った親が、段々と増長してきた子の独断専行の経営に歯止めをかけようと、子が黄金株の何たるかを理解しないうちに、臨時株主総会を開いて黄金株を発行させてしまうという例も見受けられるようになってきています。こうした場合には、後で気が付いた子との深刻なトラブルに発展します。
この他にも、取締役の報酬決定について黄金株を利用する場合があります。子が社長になったからと言って、会社の虎の子の資金を自己の報酬に当ててしまわないように歯止めをかけるのです。
事業譲渡・合併についての黄金株の利用も考えられます。M&Aスキーム(手法)である事業譲渡・合併を行おうとする場合、株主総会で特別決議(3分の2以上の賛成)が必要になりますが、子に3分の2以上の株式を譲ってしまえば、こうした決議も勝手に行えるようになってしまいます。
黄金株があれば、事業譲渡や合併に反対であれば、その権利を行使して事業譲渡や合併を阻止できるのです。
この他にも、会社の資産譲渡、高額融資、新株発行、組織の大幅変更、主幹従業員の人事等について拒否権を設定しておくことが考えられます。
監修者
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植田 統 弁護士(第一東京弁護士会)
東京大学法学部卒業、ダートマス大学MBA、成蹊大学法務博士
東京銀行(現三菱UFJ銀行)で融資業務を担当。米国の経営コンサルティング会社のブーズ・アレン・アンド・ハミルトンで経営戦略コンサルタント。
野村アセットマネジメントでは総合企画室にて、投資信託協会で専門委員会委員長を歴任。その後、レクシスネクシス・ジャパン株式会社の日本支社長。
米国の事業再生コンサルティング会社であるアリックスパートナーズでは、ライブドア、JAL等の再生案件を担当。
2010年弁護士登録。南青山M's法律会計事務所を経て、2014年に青山東京法律事務所を開設。2018年、税理士登録。
現在、名古屋商科大学経営大学院(MBA)教授として企業再生論、経営戦略論の講義を行う他、Jトラスト株式会社(東証スタンダード市場)等数社の監査役も務める。