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Ⅲ 2020年民法改正による賃貸借関連の改正により、賃貸借契約書及び賃貸実務はどのように変更しなければならないのか
目次
1 2020年民法改正を再度見直しておくことの必要性
2020年民法改正により、賃貸借に関係する部分が変わり、これは不動産賃貸実務に影響を与え、賃貸借契約書の内容も変更しなければならなくなりましたが、今日でも、不動産賃貸の現場では、その改正内容が周知徹底されておらず、旧法のままの取り扱いが行われています。そこで、その内容を振り返っておきましょう。
2 2020年民法改正の4つのポイント
1 敷金返還や原状回復に関するルールが明確化された
ア 敷金返還についてのルール
敷金について、賃貸借契約が終了して明け渡しを受けたときに、家主は、敷金から賃借人の債務を差し引いた額を賃借人に返還しなければならないことが法律上、明記されました。
また、賃借人が家主の承諾を得て、賃貸借契約の賃借人を変更したケースでも、家主は、敷金から賃借人の債務を差し引いた額を賃借人に返還しなければならないことが明記されました。
いずれも、従来の実務通りです。
イ 原状回復についてのルール
原状回復のルールの明確化については、賃借人は通常損耗(通常の使用によって生じた傷みや経年劣化)については原状回復義務を負わないことが明記された。
なお、通常損耗についても賃借人の負担とする特約を設けることについては、現在も一部の不動産賃貸借契約で行われていますが、民法改正後もこのような特約が必ずしも否定されるわけではありません。
これも従来の賃貸実務を変更するものではありません。
2 連帯保証人について極度額の設定が義務付けられた(改正民法465条の2)
不動産賃貸借契約において連帯保証人を付けるときは、必ず、契約締結時に極度額(連帯保証人の責任限度額)を定めなければならないことになり、極度額を定めていない連帯保証条項は無効とされることになりました。
従来のように、「賃借人が本契約上負担する一切の債務を連帯して保証する」ではなく、「賃借人が本契約上負担する一切の債務を極度額●●●万円の範囲内で連帯して保証する」というように変更しなければならなくなりました。
問題は極度額をいくらに設定するかですが、極度額設定については特に法律上のルールはなく、家主と連帯保証人の間で合意した金額を自由に設定することになります。
家主側の立場からすると、滞納発生から明け渡しまで1年半くらいかかることもありますので、家賃の18か月分が目安となりますが、敷金を預かっていない物件については、原状回復費用を加算した額としたらよいと思いますが、最終的には連帯保証人との話し阿合いで決まることになります。
3 事業用の賃貸については、新たに賃借人から連帯保証人に賃借人の財産状況などを情報提供することが義務付けられた(改正民法465条の10)
これは連帯保証人の候補者に対して、連帯保証人を引き受けるにあたり、賃借人にどの程度の財産があるかを把握する機会を与えることで、連帯保証人を引き受けるかどうかについて十分な検討をさせようとするためです。
法人がオフィスを借りる場合はもちろんですが、個人事業の飲食店が店舗を借りる場合も、事業用ですのでこの規定が適用されます。
賃借人がこの情報提供を怠り、賃借人が連帯保証人に情報提供をしなかったことにより、連帯保証人が賃借人の財産状況等を誤解して連帯保証人になることを承諾した場合で、かつ、家主が、賃借人が情報提供義務を果たしていないことについて知っていたり、あるいは、知らないことに過失があった場合は、連帯保証人は連帯保証契約を取り消すことができるとされています。(改正民法465条の10)
このように賃借人が連帯保証人への情報提供義務を果たしていない場合、家主としても連帯保証人から連帯保証契約を取り消され、滞納家賃等を連帯保証人に請求できなくなるという重大な問題が起こりますので注意が必要です。
賃借人から連帯保証人への情報提供が義務付けられた項目は、①賃借人の財産状況、②賃借人の収支の状況、③賃借人が賃貸借契約の他に負担している債務の有無並びにその額、④賃借人が賃貸借契約の他に負担している債務がある場合、その支払状況、⑤賃借人が家主に保証金などの担保を提供するときはその事実および担保提供の内容、となっています。
民法改正後は、事業用の賃貸借については、この5項目について、賃貸借契約書に記載欄を設けて、賃借人に記入させた後で、連帯保証人に署名、捺印を求めることで、賃借人に連帯保証人への情報提供義務を確実に果たさせることが必要になります。
4 連帯保証人からの問い合わせに対する家主の回答義務が新設された
家主は連帯保証人から賃借人による家賃の支払状況について問い合わせを受けたときは、遅滞なく回答することが義務付けられました。(改正民法458 条の2)
回答をしていないと、賃借人が家賃を滞納し、家主から連帯保証人に滞納家賃等を請求しなければならない場面になったときに、連帯保証人から回答義務違反を指摘されて、支払いを受けられなくなるリスクがありますので、管理会社や賃貸不動産オーナーは、連帯保証人から家賃支払い状況についての問い合わせを受けたときに、きちんと対応するように意識することが必要です。
以上見てきたように、2020年民法改正は、不動産賃貸借実務に影響を与え、契約書の修正も必要とするものですので、もう一度、改正の内容を確認しておくことが必要です。
監修者
植田 統
1981年、東京大学法学部卒業後、東京銀行(現三菱UFJ銀行)に入行。
ダートマス大学MBAコース留学後、ブーズ・アレン・アンド・ハミルトンで経営戦略コンサルティングを担当。
野村アセットマネジメントで資産運用業務を経験し、投資信託協会で専門委員会委員長を歴任。
レクシスネクシス・ジャパン株式会社の社長を務め、経営計画立案・実行、人材マネジメント、取引先開拓を行う。
アリックスパートナーズでライブドア、JAL等の再生案件、一部上場企業の粉飾決算事件等を担当。
2010年弁護士登録後、南青山M's法律会計事務所に参画。2014年に青山東京法律事務所を開設。2018年、税理士登録。
現在、名古屋商科大学経営大学院(MBA)教授として企業再生論、経営戦略論を講義。数社の社外取締役、監査役も務める。