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Ⅱ 2020年民法改正により、瑕疵担保(契約不適合)責任が変更されたことで、どのような契約書及び実務の変更が必要になったのか
目次
1.2020年民法改正で不動産売買契約書及び不動産売買実務のどこを変更することが必要になったのか
民法は、2020年4月1日に改正されましたが、今でも新しい民法に対応した変更が行われていないままのものが出回っています。改めて、何が民法改正で変わったのかを確認し、もし変更が行われていないなら、早急に対応する必要があります。
また、契約書を変更しなければならないということは、実務の対応も変更しなければならないということですので、不動産会社の方は、何が変わったのかも、しっかりと頭にいれておく必要があります。
2.2020年民法改正により瑕疵担保(契約不適合)責任が変更された5つのポイント
(1) 瑕疵担保責任から契約不適合責任に名称が変更
まず、最初のポイントは、民法改正により、これまでの「瑕疵担保責任」は、「契約不適合責任」という名称に変更されましたが、「契約不適合」の意味は、これまでの瑕「瑕疵」と基本的に同じと考えて差し支えありません。
ただし、不動産売買契約書において、これまで瑕疵担保責任と記載していた点については、用語を変更しておくことが必要になります。
(2) 改正民法では、買主が契約時に知っていた瑕疵(契約不適合)についても、売主の責任の対象となる可能性がでてきた
中古の家屋とその敷地を売買するが、その家屋が隣地に越境していた場合を例に説明します。
民法改正前は、売買契約書や重要事項説明書で、隣地への越境の点を記載していれば、買主もその瑕疵を知ることになるので、「隠れた瑕疵」にはあたらないことになり、売主が瑕疵担保責任を負担することはありませんでした。
しかし、民法改正後の契約不適合責任では、買主が知っていた、知らなかったにかかわらず、契約不適合があれば、売主が責任を負う可能性があることになりました。売買契約書や重要事項説明書に越境の点の記載があっても、後日、買主が隣地所有者から越境についての対応を求められて費用を負担したようなケースでは、売主も買主から損害賠償請求を受ける可能性があるようになったということです。
(3) 瑕疵(契約不適合)があった場合、買主は修補請求(追完請求)や代金減額請求が可能になった
民法改正前は、購入した不動産に瑕疵(契約不適合)があった場合、買主がとれる手段は、「契約解除」と「損害賠償の請求」の2つだけでしたので、購入した中古の家屋の基礎部分がシロアリ被害を受けていた場合(隠れた瑕疵にあたる)に、基礎部分を修理してくれという請求(修補請求)や、基礎部分を修理するので家屋の購入代金を減額してくれという請求(代金減額請求)を売主にすることはできませんでした。
これが、民法改正により、買主は、修補請求も代金減額請求もできるようになったのです。
(4) 売主が瑕疵(契約不適合)を知っていた場合や瑕疵(契約不適合)を知らないことについて売主に重大な過失があった場合は、売主の責任期間が延長された
まず前提として、不動産に瑕疵があった場合の売主の瑕疵担保責任の期間については、個人間売買の場合は、買主が瑕疵を知った時から1年間(民法第566条第1項)、会社間売買の場合は、引渡しから6か月間(商法526条第2項)となっています。
民法改正により、売主が瑕疵を知っていたかあるいは知らないことについて重大な過失があった場合は、上記の期間制限は適用されず、5年となりました。
売主が基礎部分のシロアリ被害について重大な過失により知らないで建物を売却したようなケースでは、買主は瑕疵を知ったときから、5年間売主の責任を問うことができるようになったのです。
(5) 手付に関する契約条項の書き方に見直しが必要になった
手付とは、相手方が契約の履行に着手するまでは、売主は手付の倍額の支払い、買主は手付の放棄と引き換えに契約を解除できるという制度です。この点は、民法改正でも変更はありませんが、民法改正前は、手付解除ができる期限について、民法の条文上、「当事者の一方が契約の履行に着手するまで」と記載されていました。(民法557条第1項)
この規定は、「当事者の一方」と記載されているため、「契約を解除しようとする側が契約の履行に着手している場合も解除できない」と解釈される余地があったので、契約を解除しようとする側が契約の履行に着手していても手付解除が可能であることが明らかにするために、民法の条文が「相手方が契約の履行に着手するまで」と変更されたというものです。
3 不動産売買契約書と不動産売買実務対応をどのように修正するべきか
以上見てきたように、民法改正によって実質的な変更があったのは、瑕疵担保責任(契約不適合責任)の部分です。
しかし、民法のこの規定は、任意規定といって、当事者が契約書で別の規定をすれば、そちらが優先するというものです。したがって、
- 改正民法による新しい契約不適合責任のルールを適用すると不都合が生じる場面では、不動産売買契約書において、改正民法とは別の記載をすることにより、改正民法のルールの適用を排除することが可能
今回の民法改正では売主の責任が拡大されていますので、特に自社が売主の立場になる場合や、自社が売主側の仲介をする場合は、売主の責任が過大にならないように、契約書で改正民法のルールを変更することが必要になってきます。
- ただし、宅建業者が自ら売主となる宅地・建物の売買の瑕疵担保責任については、契約書による修正が不可のため、改正民法の新しいルールが適用される
宅建業法第40条により、宅建業者が自ら売主となる宅地・建物の売買については、不動産売買契約書で改正民法のルールを修正することはできず、改正民法の新しいルールがそのまま適用されることになります。
以上見てきたように、2020年の民法改正により、瑕疵担保責任(契約不適合責任)の問題は、大きく変更されていますので、もし、まだ契約条項を修正できておらず、実務対応も改正に対応していないという方は、早急に対応することが必要です。
監修者
植田 統
1981年、東京大学法学部卒業後、東京銀行(現三菱UFJ銀行)に入行。
ダートマス大学MBAコース留学後、ブーズ・アレン・アンド・ハミルトンで経営戦略コンサルティングを担当。
野村アセットマネジメントで資産運用業務を経験し、投資信託協会で専門委員会委員長を歴任。
レクシスネクシス・ジャパン株式会社の社長を務め、経営計画立案・実行、人材マネジメント、取引先開拓を行う。
アリックスパートナーズでライブドア、JAL等の再生案件、一部上場企業の粉飾決算事件等を担当。
2010年弁護士登録後、南青山M's法律会計事務所に参画。2014年に青山東京法律事務所を開設。2018年、税理士登録。
現在、名古屋商科大学経営大学院(MBA)教授として企業再生論、経営戦略論を講義。数社の社外取締役、監査役も務める。