公開日:

Ⅰ 定期借家契約と普通借家契約の違い

1 普通借家契約では、賃借人が保護されている

賃貸人は、借地借家法の適用のある「普通借家契約」を締結してしまったら、自分の都合で契約を終了させたいと思っても、そう簡単に賃借人に建物明け渡しを求めることはできません。

 

たとえ契約書に、契約期間を定めたとしても、契約期間満了時期の6か月前には更新拒絶通知を出さなければならず、また、法律上の「正当事由」がなければ、更新拒絶は認められません。

 

「正当事由」を備えているかは、様々要素を考慮して判断されますが、立ち退き料の支払いが要求されることになりますので、経済的負担が生じます。これについては、別のキーポイント解説で詳しく説明していますので、そちらをご参照下さい。

そこで、最近では、賃貸人が、「定期借家契約」を利用するようになっています。

2. 定期借家契約は、賃貸人に有利

定期借家契約とは、借地借家法38条に定められたもので、更新拒絶通知も、正当事由も必要とせず、契約書に定められた契約期間が満了すれば、確定的に契約が終了する契約です。

 

もっとも、定期借家契約の場合、契約期間内の中途解約はむしろ厳しく制限されるので、賃貸人が必要な場合にすぐに契約を終了させることができるわけではありません。

3 定期借家契約の締結には、厳格な手続きが定められている

定期借家契約は、(1)契約成立段階、(2)普通借家契約から定期借家契約に切り替える場合、(3)再契約をする場合、(4)契約終了段階で、厳しい手続きが定められています。

 

それぞれの段階で、賃貸人は、注意すべき事項をきちんと理解し、正しい理解に基づいて契約締結・対応をとっていく必要があります。

(1)契約成立段階の注意

普通借家契約ではなく「定期借家契約」が成立したと認められるためには、契約書に「定期借家契約」「更新しない」と記載するだけでは不十分で、法律上は、①契約期間の定め、②更新しないという条項、③書面で契約を締結すること、④更新がないことの書面による事前説明の4点が要求されています。

(2)普通借家契約から定期借家契約への切り替え

賃貸人としては、今ある普通借家契約をすべて定期借家契約に切り替えたいと考えるところですが、実はそれほど簡単ではありません。

 

第一に、平成12年3月1日より前から契約している「居住用建物」の切り替えは認められません。借地借家契約法の定期借家契約の条項が施行されたのは平成12年3月1日ですが、現在もなおこの制限は撤廃されていません。(事務所、店舗等の事業用賃貸借契約の場合にも、成立した時期が昔のものであっても、切り替えは可能)

 

このため、施行日以前から存在する居住用の普通借家契約について、定期借家契約に切り替える内容の合意をしたとしても、無効とされます。

 

平成12年3月1日以降に成立した普通借家契約については、きちんと合意さえすれば、定期借家契約への切り替えは可能です。

 

第二に、切り替えが認められる場合でも、更新がない点で不利であることを説明して認識させた上で切り替えの合意をすることが必要です。

 

裁判例では、切り替えの合意が有効であるかどうかについて、「既に存在している契約を更新せずに、終了させること」、「新しい契約は契約期間満了時に更新がないという点でより不利な内容であること」を、きちんと賃借人が理解していることが必要だとも指摘されています。

 

したがって、単に、所定の手続をとって作成された契約書を保管しておくだけでなく、契約の切り替えにあたり、事前にやり取りした交渉過程のやり取りの内容などの書面もきちんと保管しておく必要があります。

(3)再契約をする場合

定期借家契約を締結した場合、契約期間内の解約は、普通借家契約よりも厳しく制限されるため、定期借家契約の契約期間は2年など比較的短期に設定しておき、再契約条項を入れておくことで、契約期間満了時に同じ内容で再契約をし、事実上更新と同様に扱おうとする場合もありますが、更新と再契約とは全く違い、再契約時には厳格な手続きが要求されます。

 

再契約をする段階で、また、当初の契約時と同様に、契約書を新たに作成した上で、書面交付による説明が必要となります。単に契約書の郵送等では足らず、対面や電話等で説明することが必要です。

 

普通借家契約の更新の場合には、保証人も敷金・保証金も引き継がれますが、定期借家契約の再契約の場合には、新たな契約書に、再度保証人に署名・押印してもらう必要があります。

 

また、敷金・保証金が当然には引き継がれないのですが、再契約の際の契約書に、占有開始した当初の時点で締結された契約に基づいて預託された敷金・保証金を、返還せずに再契約による敷金・保証金として引き継ぐという内容の条項を入れておくことで、実質的に引き継がれたと同じ取り扱いをすることは認められています。

 

再契約の契約書にも、契約終了時の明け渡し・原状回復条項を設けますが、何も再契約の再契約書に記載しないと、「原状」とは、再契約時点の状態ということになってしまうので、原状回復の「原状」が、再契約時点の「原状」ではなく、賃借人が建物の占有を開始した最初の時点の「原状」であることを確認する特約条項を入れておく必要があります。

(4)契約終了段階

定期借家契約であるからといって、何もせずに、契約期間満了と同時に契約が終了して明け渡しを求められるというわけではなく、定期借家契約の契約期間が1年以上の場合、期間満了の1年前から6か月前までの間に、賃貸人は賃借人に対して、期間満了により契約が終了するという内容の通知(終了通知)をしなければなりません。

 

定められた期間内に終了通知をするのを失念しまった場合は、通知時期が、契約期間内か契約期間後であるかに関わらず、通知を行ってから6か月経過すれば、賃借人に対し、契約終了による明渡請求や、約定遅延損害金の請求もできるようになります。

 

また、定期借家契約の契約期間が終了した後も、賃借人がそのまま使用を継続し、従前と同じように賃料が支払われている状態になったとしても、それだけで「更新された」「再契約した」「普通借家契約に切り替わった」と扱われるわけではありませんが、いつまでも放置していると、新たに普通借家契約が締結されたと判断される可能性がありますので、気が付いた時には、早急に対応することが必要です。

4 定期借家契約のトラブルは弁護士に相談を

以上見てきたように、定期借家契約は、適正に運用すれば、期間終了後に一度契約が終了するので、賃料を滞納しがちな賃借人を追い出したり、賃料の増額を請求できたりするので、賃貸人に有利な制度です。

 

しかし、借地借家法に従って、厳格に運用していく必要がありますので、初めて定期借家を経験する方は、専門家のアドバイスを仰ぐとよいでしょう。

 

万が一、終了通知を忘れる等、借家人とのトラブルになってしまった場合には、弁護士への相談をお勧めします。

 

青山東京法律事務所では、定期借家契約に詳しい弁護士がおりますので、お気軽にご相談下さい。

 

監修者

植田統

植田 統

1981年、東京大学法学部卒業後、東京銀行(現三菱UFJ銀行)に入行。
ダートマス大学MBAコース留学後、ブーズ・アレン・アンド・ハミルトンで経営戦略コンサルティングを担当。
野村アセットマネジメントで資産運用業務を経験し、投資信託協会で専門委員会委員長を歴任。
レクシスネクシス・ジャパン株式会社の社長を務め、経営計画立案・実行、人材マネジメント、取引先開拓を行う。
アリックスパートナーズでライブドア、JAL等の再生案件、一部上場企業の粉飾決算事件等を担当。
2010年弁護士登録後、南青山M's法律会計事務所に参画。2014年に青山東京法律事務所を開設。2018年、税理士登録。
現在、名古屋商科大学経営大学院(MBA)教授として企業再生論、経営戦略論を講義。数社の社外取締役、監査役も務める。

無料相談を実施中