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知的財産権侵害への対応
目次
1 知的財産権とは
知的財産とは、人の知的創造活動によって創作されるアイデアなど無形のもので、財産的価値があるものです。そして、知的財産権とは、法的に保護するものとして法的な権利とされるものをいいます。
知的財産権基本法では、知的財産権とは、特許権、実用新案権、育成者権、意匠権、著作権、商標権、その他の知的財産に関して法令により定められた権利又は法律上保護される利益に係る権利であると言っています。
通常の財産権は、たとえば自動車や宝石などの動産、家屋や土地などの不動産のような、物理的な実体のある「物」が対象になりますが、知的財産権は、アイデアや表現など、物理的な実体のないものを財産権として保護しています。そのため、知的財産権のことを「無体財産権」ということもあります。
(1) 特許権(特許法)
特許権とは、高度で新しい技術的アイデアである発明を保護する権利です。
発明とは、「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの」(特許法第2条)で、「物」の発明、「方法」の発明、「物の生産方法」の3つがあります。
特許権を取得するためには、特許庁に特許出願をし、特許庁の審査を経て登録をされる必要があります。保護期間は出願日から20年です。
(2) 実用新案権(実用新案法)
実用新案権とは、物の形や構造、組合せなどに関する考案を保護する権利であり、発明ほど高度でないものも含まれます。
実用新案権を取得するためには、特許庁に特許出願をし、特許庁の審査を経て登録をされる必要があります。保護期間は出願日から10年です。
(3) 意匠権(意匠法)
意匠権とは、物品の形状、模様、色彩等のデザインを保護する権利です。意匠法によると、「物品(物品の部分を含む)の形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合であり、視覚を通じて美感を起こさせるもの」と定義されています。
意匠権を取得するためには、特許庁に意匠出願をし、特許庁の審査を経て登録をされる必要があります。保護期間は、出願日から25年(2020年3月31日以前に出願した場合は、登録から20年)です。
(4) 商標権(商標法)
商標権とは、商標、つまりトレードマークを保護する権利です。
商標とは、商品やサービスの提供者を区別するための文字やマーク等で、文字、図形、記号だけではなく、立体的形状や音等も含まれます。
商標権を取得するためには、特許庁に商標出願をし、特許庁の審査を経て登録をされる必要があります。保護期間は登録の日から10年(10年毎に更新可能)です。
(5) 著作権(著作権法)
著作権とは、人の思想また感情を創作的に表現した著作物を保護するための権利です。著作権法では、「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」と定義されており、書籍や絵画、音楽や論文、コンピュータプログラムなどが含まれます。
出願や審査、登録などを経ることなく、著作物を創作した時点で権利が発生します。保護期間は、原則として、創作時から 著作者の死後70年(法人著作は公表後70年)。
(6) その他の知的財産権
以上のほかに、営業秘密(不正競争防止法)や回路配置利用権(半導体集積回路の回路配置に関する法律)、育成者権(種苗法)、商号(商法)なども知的財産権に含まれます。
2 知的財産権の侵害事例
知的財産権の権利者は、その対象となる知的財産を独占的に利用する権利があるので、第三者が、権利者の許諾を得ることなく勝手にその知的財産を利用すると、知的財産権の侵害となり、権利者から利用行為の差し止めや損害賠償の請求を受ける可能性があります。
具体的にどういう点で争いになるのかを見ておくため、いくつかの侵害事例を紹介します。
1.切り餅事件(特許権侵害)
佐藤食品工業の製品「サトウの切り餅」(餅の側面だけでなく上下面にも切り込みあり)が、越後製菓が有する切り餅の「切り込み」の特許権(餅の側面に切り込みを入れる特許権)を侵害したとして、越後製菓が佐藤食品工業に製品の製造販売差し止めと約14億8千万円の損害賠償を求めた訴訟であり、側面だけでなく上下面にも切り込みを入れるという佐藤食品工業の製品が、側面に切り込みを入れるという越後製菓の特許権を侵害しているかどうかが争点となった。
一審の判決では、越後製菓の特許と佐藤食品工業の製品は別のものだとして、特許権の侵害を否定しましたが、控訴審の知財高裁は、佐藤食品工業による特許権の侵害を認め、佐藤食品工業に対して約8億円の損害賠償を命じた。
1.漫画村事件(著作権侵害)
漫画村は、2016年に開設された違法にアップロードされた漫画などのコンテンツを掲載するいわゆる海賊版サイトです。
漫画村の運営者は、2017年に講談社など複数の出版社から刑事告訴され、2019年には刑事裁判を経て実刑判決が確定しています。さらに、2022年には複数の出版社によって元運営者に対して損害賠償を求める民事訴訟も提起されました。
3 知的財産権を侵害された場合の対応
知的財産権を侵害されてしまった場合の対応としては、民事では、差止請求と損害賠償請求、刑事では、警察・検察に対する刑事告訴が考えられます。
1.差止請求
差止請求とは、知的財産権を侵害する行為や侵害するおそれがある行為を停止また予防を請求することをいいます。
ただし、差止請求訴訟は数年をかけて審理が行われることも多く、判決がでるまでの間に知的財産権侵害による被害が拡大してしまいます。
そこで、差止の仮処分の申立てを行うことが一般的です。差止の仮処分が認められると、差止請求訴訟が確定するまでの間、仮の処分として侵害行為を一時的に停止させることができるので、被害の継続、被害の拡大が防げるのです。
1.損害賠償請求
知的財産権を侵害する行為は、民法上の不法行為に該当するので、権利者は、侵害行為者に対して、損害賠償請求をすることができます。
ただし、知的財産権が侵害されたといっても、知的財産権には物理的な実体がないため、知的財産権の侵害によって権利者にどれだけの損害が生じたのかを算定することは非常に難しいので、特許法や著作権法などにおいては、損害賠償請求に際しての損害額の推定規定を定めています。
各法令によって違いはありますが、単位当たりの利益×侵害者による販売数量を損害額としたり、侵害行為によって侵害者が得た利益を損害額としたり、ライセンス料相当額を損害額と推定したりします。
1.刑事告訴
特許法、意匠法、商標法、著作権法などの知的財産権に関する法令では、いずれも侵害等について刑事罰が定められていますので、捜査機関に対して刑事告訴を行うことも考えられます。刑事告訴を行うことで、侵害行為を予防する牽制的な効果も期待できます。
4 知的財産権を侵害された場合は弁護士に相談を
知的財産権を侵害された場合には、まずは警告書の発送からスタートします。もちろん、被害者から内容証明郵便で警告書を送ることもできますが、弁護士から送ってもらった方が相手方に対するインパクトが大きくなります。
警告書を送ることで、相手方が侵害をやめてくれればいいのですが、いろいろと理由をつけて、相手方が自己の行為を正当化してきた場合には、上記に述べた民事や刑事の手続きを踏んでいくことになります。
裁判外の交渉や訴訟、捜査機関とのやり取りとなれば、その手続や主張方法も複雑かつ専門的ですので、弁護士が必要となるでしょう。
青山東京法律事務所は、知的財産権の紛争解決の経験も多数有していますので、適切なアドバイスが行えます。是非、早めにご相談下さい。
監修者
植田 統
1981年、東京大学法学部卒業後、東京銀行(現三菱UFJ銀行)に入行。
ダートマス大学MBAコース留学後、ブーズ・アレン・アンド・ハミルトンで経営戦略コンサルティングを担当。
野村アセットマネジメントで資産運用業務を経験し、投資信託協会で専門委員会委員長を歴任。
レクシスネクシス・ジャパン株式会社の社長を務め、経営計画立案・実行、人材マネジメント、取引先開拓を行う。
アリックスパートナーズでライブドア、JAL等の再生案件、一部上場企業の粉飾決算事件等を担当。
2010年弁護士登録後、南青山M's法律会計事務所に参画。2014年に青山東京法律事務所を開設。2018年、税理士登録。
現在、名古屋商科大学経営大学院(MBA)教授として企業再生論、経営戦略論を講義。数社の社外取締役、監査役も務める。