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Ⅲ 労働問題-試用期間終了時の本採用拒否
目次
1.試用期間の意義
「試用期間」とは一般に、新たに採用した従業員について、業務を遂行する能力や勤務態度などを評価し、従業員として、本採用するにふさわしい人物かどうかの適性を会社が見極めるための期間をいいます。
試用期間は、法律によって設けることが義務付けられているものではなく、各会社の判断によって設定されています。
2.試用期間の長さ
試用期間の長さについて、法律上の制限はなく、一般的には、3ヵ月から6ヵ月程度の試用期間が設けられていることが多いようです。
ただし、法律上の制限がないとはいえ、あまりに長期間にわたる試用期間は、公序良俗に反するものとして、問題になる場合があります。
3.試用期間の延長
試用期間が満了するまでに、会社が適性を見極められず、本採用の可否を判断できない場合には、試用期間を延長する場合があり、一般的な就業規則では、「3ヵ月を限度に試用期間を延長する場合がある」などと定められています。
もし、就業規則に試用期間の延長の定めがない場合には、当然に延長することはできないと解されるため、原則として、従業員の同意を得たうえで延長することが必要となります。
4.本採用拒否は「解雇」と同様に評価される
試用期間中の従業員について、会社が自社の従業員として適性を欠くと判断した場合には、本採用をせずに試用期間満了をもって退職させる(本採用拒否する)こととなりますが、これは法的には会社が「解雇」をしたものと同様に評価されるので慎重に行うことが必要です。
本採用拒否に限らず、会社が従業員を解雇する場合には、次の2点について事前に検討をしておく必要があり、これらを十分に検討しないまま本採用拒否をすることは、労務トラブルを誘発しかねないリスクの高い行為です。
5.本採用拒否の場合の手続
会社が従業員を解雇する場合には、あらかじめ(30日以上前に)解雇の日を予告しておく必要があり、もし予告をしないで直ちに解雇をしようとする場合には、解雇予告手当(30日分以上の平均賃金)を支払う必要があります。
ただし、次の2つの場合には、例外的にこれらの手続を要しないこととされています。
(1)試用期間中の場合
解雇予告または解雇予告手当の手続は、試用期間が開始してから「14日以内」の従業員については不要とされています(労働基準法第21条第四号)。
あくまで14日以内に限られているため、例えば、会社の試用期間が3ヵ月である場合、15日目以降のタイミングで本採用拒否(解雇)をする場合には、解雇予告または解雇予告手当の手続が必要になることを意味します。
(2)従業員を懲戒解雇する場合
従業員に服務規律違反などがあり、会社が従業員を懲戒解雇する場合には、一定の要件のもと、解雇予告または解雇予告手当の手続が不要になる場合があります(労働基準法第20条第1項ただし書)。
6.本採用拒否の有効性
裁判例(三菱樹脂事件/最高裁判所昭和48年12月12日判決)では、試用期間は「解約権が留保された労働契約」であると解釈したうえで、「留保解約権に基づく解雇は、これを通常の解雇と全く同一に論ずることはできず、前者については、後者の場合よりも広い範囲における解雇の自由が認められてしかるべき」として、通常の解雇(本採用後の解雇)に比べて、会社に「広い」裁量があるとしています。
しかし、その一方で、同判決は、本採用拒否(解雇)は「解約権留保の趣旨、目的に照らして、客観的に合理的な理由が存し社会通念上相当として是認されうる場合にのみ許されるもの」であるとも言っています。
つまり、通常の解雇ほどではないにしても、試用期間だからといって、決して緩い解雇が認められるものではなく、会社による本採用拒否が法的に有効になるためには、そこに「合理的な理由」が求められるとされています。
では、具体的にどういう裁判例があるのかを見ていきましょう。
(1)雅叙園事件 東京地裁 昭和60年11月20日
総務経験者として採用したが、(1)タイムカードのチェックなどの簡単な作業でも2日かかり、人事労務関係の書類の作成にもミスが多かった、(2)試用期間を延長した後も、給与計算や報告書のミスが何度注意されても直らず、仕事に対する注意力にも欠けていたなどを理由とした本採用拒否が、有効とされました。
(2)三菱樹脂事件 最高裁 昭和48年12月12日
いったん特定企業との間に一定の試用期間を付した雇傭関係に入った者は、本採用、すなわち当該企業との雇傭関係の継続についての期待の下に、他企業への就職の機会と可能性を放棄したものであることに思いを致すときは、前記留保解約権の行使は、上述した解約権の趣旨、目的に照らして、客観的に合理的な理由が存し社会通念上相当として是認されうる場合にのみ許されるものと解するのが相当である。
換言すれば、企業者が、採用決定後における調査の結果により、または試用中の勤務状態等により、当初知ることができず、また知ることが期待できないような事実を知るに至った場合において、そのような事実に照らしてその者を引き続き当該企業に雇傭しておくのが適当でないと判断することが、上記解約権留保の趣旨、目的に徴して、客観的に相当であると認められる場合には、さきに留保した解約権を行使することができる。
(3)日本コンクリート工業事件 津地裁 昭和46年5月21日
会社の試用期間中の社員の継続雇用に関する認定基準内規で、試用期間中の出勤率90%に満たないとき、あるいは3回以上無断欠勤した場合などには、社員として継続雇用しないものとされていたので、それに該当した社員を勤務状況内規に照らし社員として不適格と判断した結果としての本採用拒否による解雇は正当と判断されました。
確かに、上記の裁判例を見ていると、通常の普通解雇よりも、本採用拒否は緩く判断されているように見受けられます。ただし、裁判例はあくまでその事件の細かな事実関係を元に導き出された判決に過ぎないので、大まかな傾向をつかめるだけであることを認識しておく必要があります。同じようなケースに遭遇した場合には、細かい事実関係を分析し、また、その証拠が集められるかも検討した上で、どのような意思決定をするかを決めていく必要があります。
監修者
植田 統
1981年、東京大学法学部卒業後、東京銀行(現三菱UFJ銀行)に入行。
ダートマス大学MBAコース留学後、ブーズ・アレン・アンド・ハミルトンで経営戦略コンサルティングを担当。
野村アセットマネジメントで資産運用業務を経験し、投資信託協会で専門委員会委員長を歴任。
レクシスネクシス・ジャパン株式会社の社長を務め、経営計画立案・実行、人材マネジメント、取引先開拓を行う。
アリックスパートナーズでライブドア、JAL等の再生案件、一部上場企業の粉飾決算事件等を担当。
2010年弁護士登録後、南青山M's法律会計事務所に参画。2014年に青山東京法律事務所を開設。2018年、税理士登録。
現在、名古屋商科大学経営大学院(MBA)教授として企業再生論、経営戦略論を講義。数社の社外取締役、監査役も務める。