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顧問弁護士契約の法律相談の範囲
目次
1.顧問弁護士の法律相談の範囲
顧問弁護士にどういうことを相談できるのでしょうか。
特に、決まった範囲があるものではありません。基本的に、どのような法律問題でも相談することができます。
しかし、これだけの答えでは、どんなことを相談できるのかイメージがわかないので、顧問先からよく相談を受ける問題をいくつか見繕って、例として紹介します。
1-1 労働問題
最近、何といっても多いのは、労働問題です。
ちまたで、セクハラ・パワハラ、残業代請求等の言葉が広まり、それに伴って、従業員の権利意識が高まってきたことから、多くの相談があります。
セクハラ・パワハラで訴えられた、退職した従業員から残業代請求をされた等がその典型です。
また、会社の側からは、不良社員対策をどうしたらよいのかという相談も多くあります。会社に来て顔を見せるが、すぐにどこかに行ってしまい、何をやっているかわからない社員、何度注意しても素行を直そうとしない社員、何を頼んでも全くできない社員等、色々な問題が発生しています。
どんなケースかで解決手法は違いますので、勤務記録を集め、他の従業員へのインタビューをして定性的情報を集める等、まずは事実を正確に把握することが重要です。その上で、顧問弁護士に相談していただければ、適格な対応を示してもらえるものと思います。
1-2 取引先との契約書締結
ビジネスの話が煮詰まれば、取引を始める前に、契約書を締結することになります。
自社で契約書が準備できている場合には、そもそも自社に有利に契約書が作成されているはずですので、問題はありません。問題は、相手方から契約書を提示された場合です。相手方が作成しているということは、相手方に有利に契約が作られているということです。一つ一つの条項を注意深く読み込んで、おかしいと思った時には、必ず顧問弁護士に相談するようにしてください。
1-3 取引先からの債権回収
取引先とのビジネスを始めて順調に行っているときはいいのですが、支払いが滞る場合があります。弁護士的には、これを債権回収の問題といいます。
こうした場合には、この取引先は、他の会社に対しても支払いを遅延している可能性が高いので、他の会社に先んじて対応をすることが大切です。
顧問弁護士に依頼して、内容証明郵便で支払いと督促してもらい、一日も早い回収を図る。それでも回収できない場合には、価値のある不動産や債権に担保権を設定する。さらにそれでも回収できない場合には、仮差押えといって、取引先の不動産へ債権を仮に差し押さえておく(仮の手続きですので、回収をするためには、その後、訴訟を提起して判決をとる必要があります)ことが大切です。
1-4 会社法の問題
会社を設立したときには、定款を作っています。定款には、取締役は最低何名必要か、取締役会を設置するのか、監査役は必要なのか等、会社の基本的形を決める重要な項目が並んでいます。
株式について定められている重要なものの一つが、株券発行会社か株券不発行会社かという条項です。
平成18年会社法施工前には、株券発行会社が基本でしたが、会社法施工後は、株券不発行会社が基本となっています。多くの会社は、この時株券不発行会社に変更したのですが、少数の会社は、いまだに株券発行会社となっています。株券発行会社であるとすると、株式を譲渡するときに株券を交付することが必要となります。
しかし、株券発行会社で株券を発行していないにもかかわらず、父から子への株式譲渡が行われたり、また、ひどい場合には、株式譲渡契約書すら作成しないで、勝手に株主名簿を書き換えてしまっているという例が見られます。
こうした会社法違反の状況が生じるのを避けるためにも、株式を譲渡する場合には、顧問弁護士に、株券発行会社である場合には定款変更をしてもらい、その後で株式譲渡契約書を作成して、株主名簿の書替をするという手続きを踏んでもらうことが必要です。
2. その他に顧問弁護士に相談できること
以上、労働問題、契約書の問題、債権回収の問題、会社法の問題を挙げてきましたが、他にも顧問弁護士に相談すると示唆を与えてもらえることがあります。
2-1 取締役メンバーの人選
多くの中小企業では、社長は、取締役のメンバーについては、深く考えずに、家族、古参の従業員などで固めています。こうしたやり方は、家族関係、友人関係が良好な時には、何の問題にもなりません。しかし、それが崩れると、大きな問題に発展します。
取締役会では多数決の原理が採用されているので、代表取締役の解任動議がなされると、代表取締役自身は議決権が行使できなくなり、残りの取締役で投票が行われることになります。
5名の取締役で取締役会が構成されている場合、代表取締役の解任動議がなされると、代表取締役自身は議決に参加できなくなり、残りの4名で議決が行われることになるのです。
したがって、3名の取締役が解任動議に賛成してしまうと、解任動議は成立してしまいます。
ですので、5名のうち2名が代表取締役の夫婦、残りの3名が古参の従業員で構成されているような場合には、従業員側が結託すれば、簡単に代表取締役の座を奪われてしまうことになるのです。
こうした事態を避けるために、取締役の構成については、顧問弁護士と相談され、見直しを行うことをお勧めします。
2-2 就業規則等の会社規則
中小企業の多くは、就業規則を定めています。
多くの場合、それはお使いの社会保険労務士から定型フォームをもらい、そのまま使っているのではないでしょうか。
しかし、労働者とのトラブルが生じた場合には、就業規則が憲法の位置づけとなりますので、就業規則に何と書かれているかは極めて重要です。
多くの社会保険労務士は、給与計算業務を主なビジネスとしており、労働者とのトラブルを自ら解決した経験は乏しいので(ほとんど弁護士に依頼することになります)、トラブルになった時に会社に有利となるように条項を作成したり、トラブルになった時にどのように対応することが必要であるかをアドバイスしてくれません。
ですので、経営者は、現在の就業規則が会社の労務管理の実態に即しているかを検討し、不安を感じたときには、顧問弁護士と相談し、規定の修正をしておくのがよいのではないでしょうか。
2-3 事業承継の問題
中小企業の経営者の方の中には、60代、70代に差し掛かり、事業承継を考え始めている方も多いものと思います。
家族経営の会社では、事業承継=相続ですので、顧問弁護士に相談して、不平等な相続とならないように、どのような手を打つかを相談してみるとよいと思います。多くの弁護士は、相続税の問題についても深い見識を持っていますので、無駄な税金を支払わず、子供たちの間に不平不満を残さないような、よい方法を考えてもらえるものと思います。
2-4 その他の問題
会社経営をしていると、このほかにも種々雑多な問題が発生してきます。経営者は、そのたびに、これは何の問題か、誰に相談したら一番いいアドバイスを得られるかを考えます。
こうした場合にも、日頃から相談している顧問弁護士がいれば、すぐに電話で聞いてみることができます。弁護士マターであれば、自ら処理してくれますし、そうでなければ、誰に相談したらよいかをアドバイスしてくれるはずです。
日頃から、顧問弁護士と会話し、信頼関係を作りあげておくことが、経営者の一助になるのです。
監修者
植田 統
1981年、東京大学法学部卒業後、東京銀行(現三菱UFJ銀行)に入行。
ダートマス大学MBAコース留学後、ブーズ・アレン・アンド・ハミルトンで経営戦略コンサルティングを担当。
野村アセットマネジメントで資産運用業務を経験し、投資信託協会で専門委員会委員長を歴任。
レクシスネクシス・ジャパン株式会社の社長を務め、経営計画立案・実行、人材マネジメント、取引先開拓を行う。
アリックスパートナーズでライブドア、JAL等の再生案件、一部上場企業の粉飾決算事件等を担当。
2010年弁護士登録後、南青山M's法律会計事務所に参画。2014年に青山東京法律事務所を開設。2018年、税理士登録。
現在、名古屋商科大学経営大学院(MBA)教授として企業再生論、経営戦略論を講義。数社の社外取締役、監査役も務める。