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Ⅷ 定款のチェックポイント

会社を設立するためには、定款が必要です。そして、定款は会社の組織を定め、意思決定の方法を定める、いわば会社の憲法ですが、多くの会社では、その重要性が認識されていません。どういう事項が定められているか、見ていきましょう。

Ⅰ 定款の解説

第1章 総則

(商号)
第1条  当会社は,●●株式会社と称し,英文では●●と表示する。

(目的)
第2条  当会社は,次の事業を行うことを目的とする。
⑴ ●
⑵ ●
⑶ ●
⑷ その他上記に付随する業務

(本店所在地)
第3条  当会社は,本店を東京都●●に置く。

(公告方法)
第4条  当会社の公告は,官報に掲載する方法により行う。

(機関構成)
第5条  当会社は,株主総会及び取締役のほか,取締役会及び監査役を設置する。

弁護士コメント
第1章では、会社名、会社の目的、本店所在地、組織(取締役会を設置し、監査役を置くこと)を定めています。

第2章 株式

(発行可能株式総数)
第6条  当会社の発行可能株式総数は,●●株とする。

(株券の発行)
第7条  当会社の発行する株式については,株券を発行しない。

弁護士コメント
現在の会社法では、株券不発行が原則ですが、以前は、株券発行が原則でした。長い歴史を持つ多くの非上場企業は、平成18年会社法改正により、株券不発行会社に変わっていますが、今でも株券発行会社のまま残っているところがあります。株券発行会社では、株式譲渡の際に株券交付が要件となりますので、株券不発行会社の場合とでは、手続きが変わります。皆さんの経営されている会社の定款を見て、株券発行会社であるかどうかを確認しておくことが必要です。

(株式の譲渡制限)
第8条  当会社の発行する株式の譲渡による取得については、株主総会の承認を受けなければならない。

弁護士コメント
未上場会社では、ほぼすべて株式の譲渡制限がついています。本定款では、譲渡するには、株主総会の承認が必要と定められています。取締役会の承認としている会社もあります。

(株主名簿記載事項の記載の請求)
第9条  当会社の株式の取得者が株主の氏名等株主名簿記載事項を株主名簿に記載又は記録することを請求するには,当会社所定の書式による請求書にその取得した株式の株主として株主名簿に記載若しくは記録された者又はその相続人その他の一般承継人と株式の取得者が署名又は記名押印し,共同してしなければならない。

(質権の登録及び信託財産表示請求)
第10条  当会社の発行する株式につき質権の登録,変更若しくは抹消,又は信託財産の表示若しくは抹消を請求するには,当会社所定の書式による請求書に当事者が署名又は記名押印して提出しなければならない。

(手数料)
第11条  前2条の請求をする場合には,当会社所定の手数料を支払わなければならない。

(基準日)
第12条  当会社は,毎事業年度末日の最終の株主名簿に記載又は記録された議決権を有する株主をもって,その事業年度に関する定時株主総会において権利を行使することができる株主とする。

2  前項の規定にかかわらず,同項の株主の権利を害しない場合は,同項記載の日の後に,募集株式の発行,合併,株式交換又は吸収分割その他これに準ずる事由により当会社の議決権を有する株式を取得した者の全部又は一部を,当該定時株主総会において議決権を行使することができる株主と定めることができる。

3  第1項のほか,必要があるときは,あらかじめ公告して,一定の日の最終の株主名簿に記載又は記録されている株主又は登録株式質権者をもって,その権利を行使することができる株主又は登録株式質権者とすることができる。

(株式取扱)
第13条  当会社の株式の譲渡承認手続,株主名簿記載事項の記載の請求手続その他株式に関する取扱い及び手数料については,法令又は定款に定めるほか、取締役会において定める株式取扱規則による。

第3章 株主総会

(招集時期)
第14条  当会社の定時株主総会は,毎事業年度の終了後3か月以内に招集し,臨時株主総会は,必要がある場合に招集する。

(招集権者)
第15条  株主総会は,法令に別段の定めがある場合を除き,取締役会の決議により取締役社長が招集する。

2  取締役社長に事故があるときは,あらかじめ取締役会の定めた順序により他の取締役がこれに当たる。

(株主総会の招集地)
第16条  株主総会は,東京都●●において招集する。

(招集通知)
第17条  株主総会の招集通知は,当該株主総会の目的事項について議決権を行使することができる株主に対し,会日の7日前までに発する。

(株主総会の議長)
第18条  株主総会の議長は,取締役社長がこれに当たる。

2  取締役社長に事故があるときは,取締役会においてあらかじめ定めた順序により他の取締役が議長になる。

3  取締役全員に事故があるときは,総会において出席株主のうちから議長を選出する。

(株主総会の決議)
第19条  株主総会の決議は,法令又は定款に別段の定めがある場合を除き,出席した議決権を行使することができる株主の議決権の過半数をもって行う。

2  会社法第309条第2項の定めによる決議は,定款に別段の定めがある場合を除き,議決権を行使することができる株主の議決権の3分の1以上を有する株主が出席し,その議決権の3分の2以上をもって行う。

弁護士コメント
ここにあるように、特別な場合を除き、株主総会決議は多数決です。最も重要な取締役選任決議も解任決議も多数決です。

(議決権の代理行使)
第20条  株主は,代理人によって議決権を行使することができる。この場合には,総会ごとに代理権を証する書面を当会社に提出しなければならない。

2  前項の代理人は,当会社の議決権を有する株主に限るものとし,かつ,2人以上の代理人を選任することはできない。

(議事録)
第21条  株主総会の議事については,開催日時及び場所,議事の経過の要領及びその結果,出席した取締役及び監査役その他会社法施行規則第72条第3項に定める事項を記載又は記録した議事録を作成し,議長及び出席した取締役がこれに署名若しくは記名押印又は電子署名をし,株主総会の日から10年間本店に備え置く。

弁護士コメント
株主総会は、会社の最高意思決定機関です。その運営の仕方を定めたのがこの章になります。招集方法、招集権者、招集通知、議長、決議要件、議事録の作成等です。

第4章 取締役及び取締役会

(取締役の員数)
第22条  当会社の取締役は,3名以上とする。

(取締役の選任)
第23条  取締役は,株主総会において,議決権を行使することができる株主の議決権の3分の1以上を有する株主が出席し,その議決権の過半数の決議によって選任する。

2  取締役の選任については,累積投票によらない。

弁護士コメント
取締役は、株主総会で選任されます。取締役候補者の推薦は、多くの会社で取締役会により行われています。

(取締役の任期)
第24条  取締役の任期は,選任後1年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結時までとする。

2  任期満了前に退任した取締役の補欠として,又は増員により選任された取締役の任期は,前任者又は他の在任取締役の任期の残存期間と同一とする。

弁護士コメント
以前は、任期2年というのが一般的でしたが、最近では、本定款にあるように1年というところが増えてきました。激しい経営環境の変化に対応したものと言えるでしょう。

(代表取締役及び役付取締役)
第25条  取締役会は,その決議により取締役の中から代表取締役社長1名を定め,他に代表取締役を定めることができる。

2  代表取締役社長は,会社を代表し,会社の業務を執行する。

3  取締役会は,その決議により取締役の中から取締役会長1名,取締役副会長,専務取締役及び常務取締役各若干名を定めることができる。

弁護士コメント
代表取締役社長は、取締役会において多数決で選ばれます。代表取締役社長は、会社を代表し、会社の業務を執行するのですから、その権限は絶大です。また、28条でも述べますが、取締役会での社長選任決議では、社長も専務、常務も平取締役も1票ずつしか持っていません。

(取締役会の招集権者及び議長)
第26条  取締役会は,法令に別段の定めがある場合を除き,取締役社長が招集し,議長となる。

2  取締役社長に欠員又は事故があるときは,取締役会があらかじめ定めた順序により他の取締役が取締役会を招集し,議長となる。

(取締役会の招集通知)
第27条  取締役会の招集通知は,会日の3日前までに各取締役及び監査役に対して発する。ただし,緊急の必要があるときは,この期間を短縮することができる。

2  取締役及び監査役の全員の同意があるときは,招集の手続を経ないで取締役会を開くことができる。

(取締役会の決議方法)
第28条  取締役会の決議は,議決に加わることのできる取締役の過半数が出席して,その出席取締役の過半数をもってこれを決する。

2  決議について特別の利害関係がある取締役は,議決権を行使することができない。

弁護士コメント
取締役会では、社長も専務、常務も平取締役も1票の議決権を持っており、その多数決で議決が行われます。社長の選任、解任も取締役会決議ですので、社長としては、取締役の半数以上を自分を支持してくれる人で固めておくことが必須です。

(取締役会の決議の省略)
第29条  当会社は,取締役が提案した決議事項について取締役(当該事項につき議決に加わることができるものに限る。)の全員が書面又は電磁的記録により同意したときは,当該事項を可決する旨の取締役会の決議があったものとみなす。ただし,監査役が異議を述べたときは,この限りでない。

(議事録)
第30条  取締役会の議事については,開催日時及び場所,議事の経過の要領及びその結果,出席した特別利害関係を有する取締役の氏名,出席した取締役の氏名又は名称その他会社法施行規則第101条第3項で定める事項を議事録に記載又は記録し,出席した取締役及び監査役が署名若しくは記名押印又は電子署名をし,取締役会の日から10年間本店に備え置く。

(取締役会規則)
第31条  取締役会に関する事項については,法令及び定款に定めのあるもののほか,取締役会の定める取締役会規則による。

(取締役の報酬及び退職慰労金)
第32条  取締役の報酬及び退職慰労金は,株主総会の決議によって定める。

弁護士コメント
取締役の報酬も退職慰労金も株主総会決議で決まることをしっかりと理解しておきましょう。中小企業の中には、取締役報酬の決議なく、毎年報酬を支払っているところが偶に見かけられます。

第5章 監査役

(監査役の員数及び選任)
第33条  監査役の員数は,2名以内とする。

2  監査役は,株主総会において,議決権を行使することができる株主の議決権の3分の1以上を有する株主が出席し,その議決権の過半数の決議によって選任する。

(監査役の任期)
第34条  監査役の任期は,選任後4年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までとする。

2  補欠により選任された監査役の任期は,退任した監査役の任期の満了する時までとする。

弁護士コメント
監査役の任期は、会社法上4年と定められており、これを短縮することはできません。非公開会社の場合には、10年まで延長することができます。

(監査役の報酬及び退職慰労金)
第35条  監査役の報酬及び退職慰労金は,株主総会の決議によって定める。

第6章 計算

(事業年度)
第36条  当会社の事業年度は,毎年●月1日から翌年●月末日までの年1期とする。

(剰余金の配当)
第37条  剰余金の配当は,毎事業年度末日現在の最終の株主名簿に記載又は記録された株主又は登録株式質権者に対して行う。

(配当の除斥期間)
第38条  剰余金の配当が,その支払の提供の日から3年を経過しても受領されないときは,当会社は,その支払義務を免れるものとする。

弁護士コメント
本章は、事業年度を定め、配当の方法についても定めています。軽視されがちな規定ですが、株主にとって配当は重要ですので、よく理解しておきましょう。

以上、定款を見てきましたが、最初に述べたように会社の憲法であり、会社の2つの重要な意思決定機関である株主総会と取締役会の運営を定めています。もし、会社を経営している方で、定款をよく見ていないという方がいらっしゃいましたら、よく読んでおきましょう。

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監修者

植田統

植田 統   弁護士(第一東京弁護士会)

東京大学法学部卒業、ダートマス大学MBA、成蹊大学法務博士

東京銀行(現三菱UFJ銀行)で融資業務を担当。米国の経営コンサルティング会社のブーズ・アレン・アンド・ハミルトンで経営戦略コンサルタント。 野村アセットマネジメントでは総合企画室にて、投資信託協会で専門委員会委員長を歴任。その後、レクシスネクシス・ジャパン株式会社の日本支社長。 米国の事業再生コンサルティング会社であるアリックスパートナーズでは、ライブドア、JAL等の再生案件を担当。

2010年弁護士登録。南青山M's法律会計事務所を経て、2014年に青山東京法律事務所を開設。2018年、税理士登録。

現在、名古屋商科大学経営大学院(MBA)教授として企業再生論、経営戦略論の講義を行う他、Jトラスト株式会社(東証スタンダード市場)等数社の監査役も務める。

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