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Ⅴ コンプライアンスとガバナンスの違い

コンプライアンスに似た概念として、コーポレートガバナンスがあります。そして、企業で法令違反等の不祥事が起こると、コーポレートガバナンスの問題とされてしまいます。しかし、コーポレートガバナンスは、本来株主の利益を守るための経営の仕組みであって、法令順守のことではありません。コンプライアンスこそが、法令順守を要請いるのですから、これはコンプライアンスの問題です。この他にも、内部統制という似た概念があります。ここでは、その3つの違いを区別して、それぞれが何を目的としているのかを見ていきましょう。

Ⅰ コンプライアンスの意味

コンプライアンスとは、法令遵守のことを言います。これを狭く解釈すれば、ただ単に法令を守れば良いということになってしまいますが、今の世の中で企業に求められているコンプライアンスとは、より広い意味で、倫理観、公序良俗などの社会的な規範に従い、公正・公平に業務をおこなうことを意味していると思います。そのため、企業が守るべき対象は、次のように広くなります。

(1) 法令

法令とは、憲法、法律、行政機関で制定される政令、府令、省令、地方公共団体の条例、規則を含みます。

民事上の問題であれば、権利を侵害された者から損害賠償請求を受けることになります。パワーハラスメントやセクシュアルハラスメントはこれにあたります。

行政上の問題であれば、業務停止命令を受けたり、業務を行うために受けている許認可を取り消されることになります。独禁法違反で企業が公正取引委員間に課徴金を科されたり、投資顧問会社が顧客に対して不適切な勧誘をしたことで、登録を取り消されたりするのが、その一例です。

刑事上の問題であれば、法令に定められている所定の処罰を受けることになります。昨今SNSを使って投資を勧誘することが頻繁に行われていますが、金をだまし取る目的でやっているのであれば、刑法上の詐欺罪に該当することになるので、逮捕勾留され、その後裁判所で罰金、懲役等を受けることになります。

(2) 企業規則

企業規則とは、企業が内部で定める社内ルールやマニュアルのことを言います。社員が企業内で働くにあたって守らなければならない規則や取り決めのことです。

そのうち最も重要なものは就業規則です。常時10名以上の従業員を雇っている雇用主は労働基準法に基づいた就業規則を作成し、所轄の労働基準監督署長に届け出ることが必要とされています。勤務時間、残業代、有給休暇、休職、懲戒、退職等、従業員の処遇に関わる重要な規則が定められていますが、多くの規定は、労働基準法に従って定められていますので、法令に近いものと言えます。

企業規則は就業規則だけではなく、定款、組織規程、取締役会規程等多くのものがありますので、経営者も従業員もこれに従わないといけません。

(3) 企業倫理・社会規範

社会が企業に求める倫理観や行動規範。消費者や取引先からの信頼を獲得するためには必須となります。これには、いろいろな場合があります。

自社の利益の追求に走った結果としての顧客の利益を軽視した営業姿勢は、ビッグモーター問題に見られるように社会からの強い批判の対象となります。

社員が過労死によって自殺してしまった電通事件も、企業姿勢が強く批判されることになりました。フジテレビ問題は、倫理に反した企業行動が世間の批判の対象となっています。

Ⅱ コンプライアンスと内部統制との違い

コンプライアンスに近い言葉として内部統制があります。

上場企業や大会社である取締役会設置会社については、内部統制の整備が法律上の義務となっています。

内部統制とは、企業を適正かつ健全に運営するための会社内部の規則や仕組みのことであり、次の4つを目的としています。

・  業務の有効性及び効率性

・  財務報告の信頼性

・  事業活動に関わる法令等の遵守

・  資産の保全

3つ目がコンプライアンスにあたり、コンプライアンスは内部統制の整備による目的の1つとして位置づけられています。つまり、内部統制は、コンプライアンスより広い概念で、他に業務の有効性と効率性を図ること、財務報告の信頼性を保つこと、資産の保全を図ることが含まれているのです。

Ⅲ コーポレートガバナンスとの違い

内部統制に近い概念として、コーポレートガバナンスがあります。

そして、コーポレートガバナンスは、一般に、企業を健全に運営するための体制である点は内部統制と変わりはないとされています。

そして、内部統制の目的の一つであるコンプライアンスを確保するには、コーポレートガバナンスも重要な要素の一つである、コーポレートガバナンスは、株主や取締役会などが会社の経営者を監視する仕組みであるのに対し、内部統制は経営者が会社の従業員を管理する仕組みとなっている点で異なると説明されています。

しかし、このように解すると、コーポレートガバナンス、内部統制、コンプライアンスが、あたかも同じ概念のようになってしまい、混乱してしまいます。これが、新聞雑誌等で、企業不祥事が起こると、それが法令違反の問題であっても、コーポレートガバナンスの問題だと指摘され、本当に何が問題だったのか、何を直せば問題が是正されるかがわからなくなってしまう原因となっています。

ですので、コーポレートガバナンスを狭義に定義し、企業は株主が所有者であるという考え方のもと、株主が経営者を監視し、経営者の不正や暴走、会社の私物化などを防いで企業価値の最大化に集中させるための仕組みや制度を意味するとした方が適切ではないかと私は考えています。

このように考えれば、コーポレートガバナンスを強化するための方法は、会社法で規定された株主総会、株主代表訴訟、監査制度を有効に機能させるために、社外取締役や社外監査役の任命、取締役と執行役の分離、指名委員会や報酬委員会の設置、内部通報制度の整備、役員や従業員の行動準則や行動規範の策定などを行うことで図っていくべきであるということになります。

Ⅳ 企業統治・ガバナンス・コンプライアンスの問題は青山東京法律事務所へ

企業統治・ガバナンス・コンプライアンスは、企業経営の根幹であり、どの企業もここを強化することなくしては、芯の通ったしっかりとした経営を行っていくことはできません。

代表の植田弁護士は、現在上場企業も含め、いくつかの監査役等を務め、日夜、企業統治・ガバナンスの問題に直面しています。また、弁護士として、役員・社員の法令違反の問題の解決に当たることも多く、コンプライアンスの問題を取り扱っています。

企業統治・ガバナンス・コンプライアンスの問題で悩みをお持ちの企業の方は、是非青山東京法律事務所へご相談下さい。

監修者

植田統

植田 統   弁護士(第一東京弁護士会)

東京大学法学部卒業、ダートマス大学MBA、成蹊大学法務博士

東京銀行(現三菱UFJ銀行)で融資業務を担当。米国の経営コンサルティング会社のブーズ・アレン・アンド・ハミルトンで経営戦略コンサルタント。 野村アセットマネジメントでは総合企画室にて、投資信託協会で専門委員会委員長を歴任。その後、レクシスネクシス・ジャパン株式会社の日本支社長。 米国の事業再生コンサルティング会社であるアリックスパートナーズでは、ライブドア、JAL等の再生案件を担当。

2010年弁護士登録。南青山M's法律会計事務所を経て、2014年に青山東京法律事務所を開設。2018年、税理士登録。

現在、名古屋商科大学経営大学院(MBA)教授として企業再生論、経営戦略論の講義を行う他、Jトラスト株式会社(東証スタンダード市場)等数社の監査役も務める。

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