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労働法-パワハラ
パワハラ防止法はもともと2019年5月に成立し、2020年6月に施行されました。これまでは大企業のみに適用され、中小企業には適用の猶予期間が設けられていました。それが、2022年4月1日から中小企業にも適用されることとなったのです。パワハラ防止法には罰則はありませんが事業主に講ずるべき措置が努力義務として定められていますので、怠ると訴訟に発展する可能性があります。こうした事態を避けるために、以下のような措置を講じておく必要があります。
目次
・事業主の方針の明確化と周知徹底
就業規則や社内ルールの改訂
社内報、パンフレットによる周知
定期的実態調査
研修・講習の実施
・相談に応じるための体制整備
相談窓口の設置
メール・電話相談
・迅速かつ適切な対応
被害者、加害者からの事情聴取による事実関係確認
配置転換や加害者への指導
行為者に対する再発防止研修の実施
・当事者の不利益防止措置
プライバシー保護
不利益な取り扱いの禁止
このほか、中高年の上司の中にはパワハラについて昔の常識しか持っていない人も多いので、「パワハラと指導の違い」についても周知徹底していく必要があります。つまり、パワハラと指導は、発言の目的や業務上必要がどうかといった点に違いがあり、訴訟に発展した場合には、「他の従業員の前で叱責する」「バカ、死ね、など暴言を吐く」「故意に仕事から外す」などの言動や発言があった場合には、上司と会社側は苦しい立場に追い込まれるということです。
具体的にどのようなパワハラ事例があったのかを最近の判例から見ていきましょう。
①上司と会社に対しパワハラによる損害賠償請求が認められた事例
ある消費者金融会社の従業員3人(A、B、C)が、上司と会社に対し、パワハラによる損害賠償請求訴訟を起こした。Aについては、抑うつ状態発症による休職とパワハラ行為の因果関係を認め、慰謝料60万円に加えて治療費・休業損害が認められた。また、Bについては慰謝料40万円、Cについては慰謝料10万円が認められた。
Aについては、裁判所は、Aが上司のパワハラについて会社に訴えたり、別の上司に相談したりしていた事実を認め、事態が深刻化する前に真摯な対応をしていれば、損害の拡大を防げた可能性があったと判示している。
②パワハラ加害者として懲戒処分を受けた社員が懲戒処分の無効を求めたが敗訴した例
IT関連会社の従業員Aが派遣社員Bに対して行ったパワハラについて会社が懲戒処分として譴責処分を行ったところ、それを不服としたAが処分の無効を求めて訴えを起こしたが、裁判所は譴責処分は有効であるとして、Bの訴えは棄却されました。
①の例は、ABCが退職をしているわけではないので、慰謝料金額は10~60万円と比較的僅少なものですが、従業員が適応障害にかかり復職不能で退職するような事態になった場合には、数千万円の解決金を支払うという事態も起こっています。
従って、会社側としては、②の会社のように加害者側に対して厳しい態度で臨み、パワハラの目を事前につまむようにしていかないといけないでしょう。
監修者
植田 統
1981年、東京大学法学部卒業後、東京銀行(現三菱UFJ銀行)に入行。
ダートマス大学MBAコース留学後、ブーズ・アレン・アンド・ハミルトンで経営戦略コンサルティングを担当。
野村アセットマネジメントで資産運用業務を経験し、投資信託協会で専門委員会委員長を歴任。
レクシスネクシス・ジャパン株式会社の社長を務め、経営計画立案・実行、人材マネジメント、取引先開拓を行う。
アリックスパートナーズでライブドア、JAL等の再生案件、一部上場企業の粉飾決算事件等を担当。
2010年弁護士登録後、南青山M's法律会計事務所に参画。2014年に青山東京法律事務所を開設。2018年、税理士登録。
現在、名古屋商科大学経営大学院(MBA)教授として企業再生論、経営戦略論を講義。数社の社外取締役、監査役も務める。