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Ⅶ 取締役会の招集手続
会社の重要な意思決定は取締役会においてなされています。では、それはどのような手続で招集されるのでしょうか。
目次
Ⅰ 原則
取締役会の招集は、期日の1週間(これより短い期間を定款で定めた場合はその期間)前までに、各取締役(および監査役設置会社においては各監査役)に招集通知を発出しなければなりません(会社法368条1項)。
しかし、定款でそれを短縮することは認められており、「会日の3日前まで」に招集通知を発するものとし、「緊急の必要があるときは、この期間を短縮することができる。」とする会社が多数あります。
このように招集期間を短縮することは可能ですが、招集通知手続をもっと簡略化できないでしょうか。
Ⅱ 招集通知の簡略化
招集通知の方法については、株主総会招集手続と異なり制限がなく、口頭・電話・メールなどによる方法も認められます。つまり、電話やメールで、「10日後の○日○時に○○で取締役会を行うので、来てください」と伝えるのでも、取締役会の招集通知として有効に認められます。
招集通知の内容についても特に規制はなく、開催日時と場所を通知する必要はありますが、議題を伝える必要はありません。議題についての説明資料等を交付する必要もありません。
もっとも、何も議題を伝えない場合、各取締役、特に社外取締役は、準備を十分に行えませんので、審議自体があまり意味のないものになってしまうおそれがあります。
こうした実務上の理由から、取締役会の審議の充実を図るため、事前に議題・議案を通知し、参考資料を配布するというプラクティスが広く行われています。
Ⅲ 招集手続
法律上は、各取締役が取締役会を招集できます(会社法366条1項本文)が、一般的には、取締役社長(代表取締役)が取締役会を招集する旨、定款や取締役会規則に定めています(会社法366条1項ただし書)。
招集通知の相手方は、各取締役に通知する必要があり、予定されている取締役会の目的事項が、ある取締役の利益相反取引の承認に関するもののみであり、その取締役が特別利害関係を有するため審議に参加できないとしても、その取締役に対しても招集通知を送らなければなりません。取締役会において、予定されていなかった事項についても、審議・決議することがあるからです。
また、監査役設置会社の場合、招集通知は監査役に対しても送らなければなりません(会社法368条1項)。ただし、監査役の監査の範囲が会計に限定されている場合、監査役に対して取締役会招集通知を出す必要がありません(会社法389条7項・383条1項)。
Ⅳ 招集手続の省略
取締役の全員(監査役設置会社にあっては、取締役及び監査役の全員)が同意したときは、招集手続を省略することができます(会社法368条2項)。
この同意の方法に制限はありませんので、書面で同意を得る必要はありませんし、明示のみならず、黙示の場合でも認められます。
また、関係者全員がたまたま集まっているとき、招集手続なしに取締役会を開催することが解釈上認められています(最高裁昭和31年6月29日判決)。
Ⅴ 取締役会決議・報告
議決に加わることができる取締役の過半数が出席し、その過半数をもって取締役会決議を行い、また、報告事項を報告します(会社法369条1項)。
報告事項しかない取締役会においても、取締役の過半数が出席していなければ、取締役会に対して有効に報告したとは認められないと考えられます。
決議の省略が認められるのは、取締役が取締役会決議の目的事項について提案した場合に、当該提案につき議決に加わることができる取締役全員が書面または電磁的記録により同意したとき(監査役設置会社の監査役が異議を述べた場合を除きます)ですが、あらかじめ定款で定めておくことが必要です(会社法370条)。
報告の省略が認められるのは、取締役、会計参与、監査役または会計監査人が取締役(・監査役設置会社の監査役)全員に対して取締役会に報告すべき事項を通知したときです(会社法372条)。
ただし、3か月に1回以上の代表取締役・業務執行取締役による職務執行状況の報告については省略が認められていないので(会社法372条2項、363条2項)、少なくとも3か月に1回は、現実に取締役会を開催しなければならないということになります。
Ⅵ まとめ
会社の重要事項の意思決定は、取締役会で行われます。取締役は、取締役会の構成員であり、一人1票を持つので、活発な議論がかわされなければなりません。しかし、実際には、社長の独演会に終わっている取締役会、事務局の出してきた議案を儀礼的に決議していくだけの取締役会が見られます。これでは、本来会社法の期待する会社の意思決定機関としての役割が果たされていると言えないので、取締役会の運営の見直しを図っていくことが必要です。
ガバナンス強化を目指しているが、うまく取締役会を機能させられない会社の方は、青山東京法律事務所へご相談下さい。
監修者
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植田 統 弁護士(第一東京弁護士会)
東京大学法学部卒業、ダートマス大学MBA、成蹊大学法務博士
東京銀行(現三菱UFJ銀行)で融資業務を担当。米国の経営コンサルティング会社のブーズ・アレン・アンド・ハミルトンで経営戦略コンサルタント。
野村アセットマネジメントでは総合企画室にて、投資信託協会で専門委員会委員長を歴任。その後、レクシスネクシス・ジャパン株式会社の日本支社長。
米国の事業再生コンサルティング会社であるアリックスパートナーズでは、ライブドア、JAL等の再生案件を担当。
2010年弁護士登録。南青山M's法律会計事務所を経て、2014年に青山東京法律事務所を開設。2018年、税理士登録。
現在、名古屋商科大学経営大学院(MBA)教授として企業再生論、経営戦略論の講義を行う他、Jトラスト株式会社(東証スタンダード市場)等数社の監査役も務める。