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支配権争い、株主権帰属の問題

株主権とは、企業の株式を取得した株主に対して与えられる権利のことです。財産的な利益に関する権利(自益権)として、剰余金分配請求権や残余財産分配請求権、株式買取請求権などがあり、株主全体の利害に関する権利(共益権)として、株主総会における議決権や株主総会決議取消訴権、会社組織に関する行為の無効訴権、取締役の違法行為の差止請求権といった権利があります。

共益権は、株主総会への出席権や株主代表訴訟提起権など1株(1単元株)の株主でも行使できる単独株主権と、会計帳簿閲覧請求権や株主総会招集請求権というような一定割合以上の株式数を持つ株主でなければ行使できない少数株主権に分けられます。

この共益権の帰属が問題となって、支配権争い、株主権帰属の問題が発生してきます。

Ⅰ 支配権争い、株主権帰属の問題が生じる原因

代表的なものとして、次の3つがあります。

① 相続対策のために子どもを名義株主にしたケース

親が会社を設立し、経営がうまく行き始めたとき、将来の相続のことを考えて、早めに子どもへ株式の名義を代えてしまうことは、よく見受けられます。会社の経営がうまく行き、利益を積み上げ始めているときに、何年も後になってしまうと、株価評価が高騰してしまうので、今のうちに株式の名義を子どもに代えておけば、仮に親である自分が死亡しても、相続税はかからずに済むだろうと考えるわけです。

親から子どもへ株式を贈与したことにして、株主の名義を親から子どもへ書き換えて、それで済ませてしまいます。毎年の定時株主総会では、親が代表取締役として株主総会を開催し、名義株主の子どもが賛成票を投じたものとして、株主総会議事録を書面で作成し、取締役の登記などもそれに基づいてやってしまいます。

こうしたやり方は、親子関係がいい限り、問題となることはありませんが、親子が仲たがいし、会社支配権をめぐって戦う状況になると、どちらが真の株主かという争いに発展します。

② 会社設立などのために名義株主が存在する場合

1990年の改正前商法においては、株式会社の設立には7名以上の発起人の確保が求められていたため、現実に株式を引き受けた者以外の友人、知人などから名前を借りて、発起人として名をつらねるケースが多く見られました。

ところが、時間の経過とともに、あるいは、相続が起きて子どもの代になると、名義株主であったはずの株主が本当の株主であったと思い違いし、株主間での争いに発展するケースが起こってきました。

③何度も株式譲渡が繰り返され、誰に株式が帰属しているのかわからなくなってしまった場合

社歴が長い会社では、その長い歴史の間に株式が何度も譲渡され、株主が不明になっているケースも見受けられます。

中小企業では、株式譲渡契約書を作成せず、資金のやり取りもなく、株式の名義を書き換えてしまうことが行われています。その上、株主名簿が整備されていないところも多いので、結果として、今の株主が誰かがわからなくなってしまいます。

本来、株主でなくなったはずの者が株主だと主張して、株式の買取を迫ってきたり、自分を取締役にして経営に参画させよと言ってきたりすることで、株主間の紛争に発展するのです。

Ⅱ 株主権帰属の問題の予防法

こうした問題が起きると、代表取締役は自称株主との対応に追われ、経営に手がつかない状態となってしまいます。そうなることを避けるためには、以下のことを徹底していく必要があります。

① 代表取締役は、株主が会社の所有者であることを自覚し、株主の異動には細心の注意を払う

② 名義株主がいる場合には、その解消を図る

③ 株主の異動がある場合には、株式譲渡契約書の作成を義務付け、かつ、譲渡承認決議をかならず行い、その議事録を残しておく

④株主名簿を整備し、法人税申告書の別表2の記載との整合性を確認しておく

尚、社歴の古い会社の中には、いまだに株券不発行の登記を行わず、株券発行会社となっている会社があります。その場合には、株券の所在を確認し、誰が株主であるかを確定させた上で、株券不発行の登記をすることが必要です。

Ⅲ 支配権争いとは、代表取締役を誰にするかの争い

支配権争い、株主権帰属の争いに発展するのは、会社側が名義株主であると見ている株主が、自分は実質的にも株主であるので、自分に株主総会で株主権を行使させろと言ってくる場合です。

会社経営の意思決定は、取締役会で行われ、日常の業務執行は代表取締役の指示に基づき行われます。ですので、支配権争いとは、取締役、代表取締役として誰を選任するのか、誰を解任するのかがポイントとなります。

代表取締役の選任は、取締役会で取締役の互選で行われます。そのとき、代表取締役自身も投票することができます。ところが、解任決議の場合は、取締役会の開催中に緊急動議として議案を上程されると、代表取締役は利益相反となるので自ら票を投じることはできなくなります。

例えば、代表取締役派が51%の株式を持ち、反代表取締役派が49%の株式をもっており、取締役会が代表取締役派2名、反代表取締役派2名の取締役で構成されている場合には、代表取締役解任の緊急動議が出されると、代表取締役は退席し、3名で議論が行われ、投票に移ります。反代表取締役派の2名が多数となり、解任決議が通ってしまいます。

解任の後には、次の代表取締役の選任決議に移りますが、今度が解任された取締役が復帰し、投票できるようになりますので、代表取締役派と反代表取締役派で2対2となり、選任が行えないという事態に立ち至ります。

これでは決着がつかないので、やはり株主総会で白黒をつけるしかないということになりますので、代表取締役派としては、反代表取締役派の取締役2名の解任を株主総会で行うことを目指すことになります。

そのためには、株主総会を招集しなければなりませんが、株主総会の収集権者は、通常定款で取締役会と定められています。反代表取締役派の取締役2名は株主総会を招集されてしまうと、51対49で解任決議がとおってしまうので、招集に反対します。その結果、取締役会決議は通りません。

そこで、51%の株式を持つ代表取締役派としては、株主総会招集許可申立てを裁判所に行っていくことになります。この申立てが通ると、代表取締役派は反代表取締役派の取締役2名を解任し、代表取締役派の1名を取締役に追加することで、取締役会は代表取締役派の3名で固められることになり、経営の安定が図れることになります。

こうした流れが想定されるのですが、反代表取締役派が、あと5%の株式は自分が持っていると主張する場合には、株主権確認訴訟でその5%の帰属を争っていくことになります。

この他にも、株主総会の決議により取締役を解任された元取締役(少数株主であるとします)が、株主総会決議不存在確認請求を提起する場合等もあります。これは、中小企業では、株主総会が実際には行われず、書面だけでやったことにしている場合がありますので、株主総会に出席していない解任された取締役が、決議が行われていないじゃないかと言って、争ってくるというものです。

支配権争い、株主権帰属の争いは、様々な訴訟によって解決されていくことになります。ケースに応じて、適切な訴訟を選択していくことが、事案の解決のために必要です。

Ⅳ 支配権争い、株主権帰属の問題に悩んだら、青山東京法律事務所へ

青山東京法律事務所では、これまで数多くの支配権争い、株主権帰属にかかわる訴訟を行ってきました。取締役を解任する側に立つ場合、解任された側に立つ場合の両方で経験を有しています。

もし、皆様の会社において、支配権争い、株主権帰属の問題が生じた場合には、是非青山東京法律事務所へご相談をお願いします。

 

株主・株式・株主総会向けの顧問弁護士サービスについて

青山東京法律事務所は、企業法務の一環として、株主・株式・株主総会に関する多様なサービスを提供しています。

具体的には、株主総会の運営支援、議決権数の管理、支配権維持のための黄金株や属人株の活用、株主総会決議の争訟対応、議決権行使の差止め手続き、さらには事業再編に関する助言など、企業のガバナンス強化や組織再編成をサポートしています。

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監修者

植田統

植田 統   弁護士(第一東京弁護士会)

東京大学法学部卒業、ダートマス大学MBA、成蹊大学法務博士

東京銀行(現三菱UFJ銀行)で融資業務を担当。米国の経営コンサルティング会社のブーズ・アレン・アンド・ハミルトンで経営戦略コンサルタント。 野村アセットマネジメントでは総合企画室にて、投資信託協会で専門委員会委員長を歴任。その後、レクシスネクシス・ジャパン株式会社の日本支社長。 米国の事業再生コンサルティング会社であるアリックスパートナーズでは、ライブドア、JAL等の再生案件を担当。

2010年弁護士登録。南青山M's法律会計事務所を経て、2014年に青山東京法律事務所を開設。2018年、税理士登録。

現在、名古屋商科大学経営大学院(MBA)教授として企業再生論、経営戦略論の講義を行う他、Jトラスト株式会社(東証スタンダード市場)等数社の監査役も務める。

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