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Ⅶ 取締役会における代表取締役の解職と株主総会における代表取締役の解任
多くの会社では、代表取締役が社長となっており、その社長が取締役会の議長を務め、取締役会にかかる議案をコントロールし、取締役会で決議を取っていきます。そして、その決議事項の実施は、代表取締役の指示の下、担当取締役が担っていくことになります。したがって、代表取締役が会社経営において果たす役割は巨大です。したがって、会社の経営を軌道修正しようとするときには、代表取締役を代えることが必要になってきます。
目次
Ⅰ 代表取締役の解職・解任
代表取締役の解職とは、代表取締役から代表権のみを失わせ、平取締役とすることです。この場合、代表取締役は引き続き取締役としての権限を有し、取締役会に出席することもできます。
これに対して、代表取締役の解任とは代表取締役の取締役としての地位を失わせることです。この場合、代表取締役は取締役ではなくなり、会社との委任関係は終了します。同時に代表権もなくなります。
Ⅱ 解職の手続
代表取締役を解職するのは、取締役会の決議によって行うことができます。代表取締役の解職に関する決議事項は、取締役会で通常行われている他の決議事項と同様、出席した取締役の過半数をもって決議します。
代表取締役を解職する決議において、審議の対象となっている代表取締役は当該決議について特別の利害関係を有すると解されており、議決権を有しません。また、決議の員数としてもカウントされません。
代表取締役解職の議題は、あらかじめ取締役会の議題としておく必要はなく、現場で緊急動議として上程することもできます。代表取締役の解職が議題として上程されれば、審議の対象となっている代表取締役は求めがあれば会議室から退席しなければならず、決議において議長を務めることもできません。
取締役が10名、代表取締役派が5名、反代取締役派が5名いると仮定してみましょう。反代表取締役から、代表取締役解職の動議が出されると、代表取締役は、議事にも議決にも参加できませんから、取締役は全部で9名、代表取締役派が4名、反代表取締役派が5名となりますから、解職決議は4:5で可決されます。この決議は、ただちにその効力が生じますので、代表取締役は不在となります。
取締役会設置会社の場合、代表取締役は必ず選定しなければならないので、今度は、取締役会において新たな代表取締役を選定することになります。この時は、解職された代表取締役は取締役として、決議に参加できますので、取締役会の構成は、5:5に戻り、どちらかの派が譲らない限り、永遠に代表取締役が選任されない状態になってしまいます。
代表取締役が誰であるかということは会社の登記事項とされていますので、代表取締役を解職し、新たな代表取締役を選定した場合には変更登記を行う必要があります。
Ⅲ 解任の手続き
代表取締役の解任は基本的に取締役の解任と同様です。つまり、株主総会で決議をし、過半数の賛成を得られた場合に、解任決議が有効となります。
代表取締役の代表権について取締役会で解職の手続を取らなくても、株主総会で代表取締役が解任されてしまえば、代表取締役は、代表権も取締役の地位も同時に失います。
Ⅳ 代表取締役が会社の株式の過半数を保有している場合
代表取締役がオーナーであり、会社の株式の過半数を保有している場合、代表取締役を解職・解任しても、その代表取締役はすぐに復活することができます。
なぜなら、過半数を保有する株主は、会社に株主総会の開催をしてもらえなくても、裁判所から株主総会会社許可を経て、株主総会を開けば、自分の過半数の票により、意に沿わない取締役を解任し、新たな取締役を選任することが可能だからです。
ただし、取締役の解任には、株主総会の招集が必要であり、普通、招集は取締役会が行うことになっているので、反代表取締役派が50%以上の議席を占める取締役会では、決議が行えません。そこで、解職・解任された代表取締役は、裁判所へ株主総会招集許可を申し立て、その認可を得て、初めて株主総会を招集できることになります。それにかかる3,4か月の時間がかかりますが、この時間を待てば、代表取締役は、自分の持つ過半数の議決権を行使して、代表取締役の座に復帰することができます。
Ⅴ 代表取締役の解職・解任のご相談は青山東京法律事務所へ
青山東京法律事務所では、代表取締役の解職・解任についても、実績を有しています。滅多に起こらない案件ではありますが、最近は、横領や背任、不祥事の発生等の問題は後を絶たず、これからも時々起こりうる紛争の形態だと思っています。
代表取締役の権限は絶大ですから、解職・解任は慎重に手続を踏んで行っていく必要があります。手続のやり方に不安がある、誰か伴走者が欲しいと思っている場合には、是非青山東京法律事務所へご相談下さい。
監修者
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植田 統 弁護士(第一東京弁護士会)
東京大学法学部卒業、ダートマス大学MBA、成蹊大学法務博士
東京銀行(現三菱UFJ銀行)で融資業務を担当。米国の経営コンサルティング会社のブーズ・アレン・アンド・ハミルトンで経営戦略コンサルタント。
野村アセットマネジメントでは総合企画室にて、投資信託協会で専門委員会委員長を歴任。その後、レクシスネクシス・ジャパン株式会社の日本支社長。
米国の事業再生コンサルティング会社であるアリックスパートナーズでは、ライブドア、JAL等の再生案件を担当。
2010年弁護士登録。南青山M's法律会計事務所を経て、2014年に青山東京法律事務所を開設。2018年、税理士登録。
現在、名古屋商科大学経営大学院(MBA)教授として企業再生論、経営戦略論の講義を行う他、Jトラスト株式会社(東証スタンダード市場)等数社の監査役も務める。