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Ⅲ 株主権確認請求
株主権とは、企業の株式を取得した株主に対して与えられる権利のことです。財産的な利益に関する権利(自益権)として、剰余金分配請求権や残余財産分配請求権、株式買取請求権などがあり、株主全体の利害に関する権利(共益権)として、株主総会における議決権や株主総会決議取消訴権、会社組織に関する行為の無効訴権、取締役の違法行為の差止請求権といった権利があります。
共益権は、株主総会への出席権や株主代表訴訟提起権など1株(1単元株)の株主でも行使できる単独株主権と、会計帳簿閲覧請求権や株主総会招集請求権というような一定割合以上の株式数を持つ株主でなければ行使できない少数株主権に分けられます。
この共益権の帰属が問題となって、株主権帰属の問題が発生してきます。
目次
Ⅰ 株主確認請求訴訟の準備のための証拠探し
株主権の帰属を争うためには、まずは、訴訟の証拠となる資料を探してみることが必要です。最も役に立つのは、法人税申告書の別表2の同族会社等の判定に関する明細書の記載です。これは税理士が作成してくれるものですので、一定の信用性はあります。
ただ、名義株の争いということになると、名義株主が株主として書かれているので、創業者が出資金の払込をしたという証拠、つまり、銀行の入出金明細などが必要となります。
そのためには、創業者から、どのようにして出資金の振込をしたのか等の記憶を聞き出すのが一番でしょう。しかし、創業者が既に死亡しており、現在の社長は株式譲渡の履歴をよく知らないという場合には、とにかく会社に残っている古い通帳、税務申告書等をひっくり返して、証拠を見つけ出すしかありません。
それで何とか証拠が見つかったという場合に、株主権確認請求訴訟を提起することになります。
Ⅱ 株主権確認訴訟の原告と被告
自らに株主権があると主張する者(保有株式数に株主と会社の間で見解の相違がある場合も含む)が原告として訴訟を提起することになりますが、被告となるのは、原告への株主権帰属を否定している会社か、その株式は自らのものだと主張する別の株主です。
訴訟の代表的なケースとしては、会社から株主の地位を認められていない少数株主が、会社とほぼすべての株式を所有している代表取締役を相手に、自分が株主であり、〇株所有しているとして訴えを起こす場合です。
Ⅲ 株主権帰属の立証方法
原告が少数株主である場合には、会社の有する書類や記録へのアクセスができないので、自己が株主であることを立証するのに苦労することになります。以下のような証拠を見つけることができれば、訴訟を有利に展開できるようになります。
ア 株式譲渡契約書
これは自らが株式の譲渡を受けたことを証明するものですのできわめて重要な証拠となります。
イ 株式譲渡承認請求書・承認書
ほぼすべての中小企業では、株式に譲渡制限がついており、株主総会若しくは取締役会に譲渡承認請求を行う必要があります。したがって、株式譲渡承認請求書と承認書がそろっていれば、これも重要な証拠となります。
ウ 株券の存在
平成18年の会社法改正によって株券不発行が原則となりましたので、現在残っている株券発行会社は少数です。その少数の株券発行会社においては、株券の譲渡が株式譲渡の成立要件となっていますので、株券を持っている場合には、株主であることの有力な証拠となります。
エ 株主名簿
株主名簿に自己の名前が記載されていることは、会社が自己を株主として認めていることを示すものですので、これも有力な証拠となります。既に述べましたように、多くの中小企業では、法人税申告書の別表2の同族株主の判定明細書が株主名簿の代わりをしていますので、これを手に入れることができれば証拠となります。
オ 出資金を振り込んだ際の預金通帳記帳・銀行記録
自己の株が名義株であると争われている場合には、出資金を振り込んだ記録があれば、 名義株でないことの有力な証拠となります。
カ 送付されてきた株主総会招集通知
これも会社が自己を株主として取り扱ってきたことの有力な証拠となります。
Ⅳ 株主権確認請求訴訟は青山東京法律事務所へ
青山東京事務所では、株主権帰属の問題を何度も扱っています。多くのケースでは、親族間の譲渡であるため、会社法に従って適正な手続きが踏まれていないことが争いの起こる原因になっていました。
争いになる典型的なケースは、親子間で子が小さい時、若い時に株式を贈与されているが、後に親子関係が悪化して子が追い出されるという場合です。
子が小さい時、若い時は、親子仲もよく、親は将来子に会社を継がせるつもりでいます。顧問税理士は、株価がまだ安く、今譲渡しても贈与税をあまり支払わなくてよいという理由で、親から子への譲渡を勧めます。贈与税が多額になることを避けるために、大きな利益を計上する決算が出る直前に、顧問税理士が譲渡をせかす場合もあります。
顧問税理士が主導してやっていますから、法人税申告書の別表2の同族会社の判定明細書の株主名だけが書き換えられますが、株式譲渡契約書、株式譲渡承認決議等は、ちゃんと行われない場合も多いようです。
こうした状態ですので、子が追い出されることになると、法人税申告書の別表2を根拠として、自分が株主であると主張していくしかありません。子が過半数以上の株式の贈与を受けていれば、株主総会で親を取締役から解任することが出来ます。子が過半数の株式を持っておらず、親が過半数を持っている場合には、泣き寝入りせざるをえません。
株券発行会社で同じような親子間の争いを行ったこともありますが、その場合には株券がそもそも発行されておらず、当然株券を所持していなかったため、株式譲渡の成立を裁判所に認めてもらうことができませんでした。
こうした事態を避けるためには、子は、自分が親から株式の譲渡を受けたときの手続が会社法に従ってちゃんと行われているか、自己の名が株主名簿にちゃんと記載されているかを確認しておいた方がいいでしょう。
株主権確認請求訴訟を経験している弁護士は多くはありませんので、問題が生じた時には、経験豊富な青山東京法律事務所へご相談ください。
監修者
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植田 統 弁護士(第一東京弁護士会)
東京大学法学部卒業、ダートマス大学MBA、成蹊大学法務博士
東京銀行(現三菱UFJ銀行)で融資業務を担当。米国の経営コンサルティング会社のブーズ・アレン・アンド・ハミルトンで経営戦略コンサルタント。
野村アセットマネジメントでは総合企画室にて、投資信託協会で専門委員会委員長を歴任。その後、レクシスネクシス・ジャパン株式会社の日本支社長。
米国の事業再生コンサルティング会社であるアリックスパートナーズでは、ライブドア、JAL等の再生案件を担当。
2010年弁護士登録。南青山M's法律会計事務所を経て、2014年に青山東京法律事務所を開設。2018年、税理士登録。
現在、名古屋商科大学経営大学院(MBA)教授として企業再生論、経営戦略論の講義を行う他、Jトラスト株式会社(東証スタンダード市場)等数社の監査役も務める。