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カスタマーハラスメントへの対応
昨今、「お客様は神様」という言葉を勘違いした顧客からの過度なクレームや要求によって、会社が損害を被る、従業員が心身ともに疲弊するという被害が多発しています。
これを、カスタマーハラスメント(以下「カスハラ」といいます。)といい、会社として、いかに対応していくかが問題となっています。
目次
1 カスハラ対応のポイント
1.現状の把握
カスハラの可能性がある案件への対応にあたっては、まず、顧客側の要求を正確に把握し、会社側の対応に落ち度がなかったかを分析することが必須です。
どちらの言い分が正しいのかを評価するためには、当事者からヒアリングを行うのは勿論、周囲の社員からもヒアリングを行い、さらに録音、ビデオ等があれば、それも視聴し、できる限り何が起こったかを明らかにしていくことが必要です。
会社側に何らかの落ち度はあるが、顧客のクレームのし方(執拗に電話をかけてくる、法外な金銭を請求する、罵詈雑言を浴びせる)に問題があるケースもありますので、顧客の要望のどこまでが正当で、どこからが不当なものであるかを認定することが必要になります。
1.対応策の検討・実行
ア 方針の決定・説明
ヒアリング等の現状把握に基づき、顧客側の責任か、会社側にも非があったのかを判断し、どのように対応していくかを決定します。
例えば、商品に瑕疵があった場合には、商品の返品・交換には応じるが、金銭の支払いには応じない、商品に瑕疵はなく、顧客のカスタマーハラスメントであると認定された場合には、顧客の要求に応じないなどです。
そして、決定した方針を顧客に伝えることになります。面談・書面・メールなど様々な方法が考えられますが、いずれの方法をとっても、その記録を残しておくことが必要です。後日、紛争になった場合の証拠とするためです。
イ 弁護士への委任
悪質な事案であるため社員での対応が難しい場合、弁護士に対応を委任することも考えられます。費用はかかりますが、社員がカスハラ対応から解放されること自体に大きなメリットがありますし、顧客側も、相手が弁護士では無理難題も言いにくく、終息に向かう可能性が高まります。
ウ 警察への相談・被害届の提出、法的措置
顧客によるカスハラ行為が非常に悪質で、例えば、暴力行為で従業員が負傷した・商品が破損した(暴行、傷害、器物損壊)、暴言・暴行などで営業を妨害した(威力業務妨害)、従業員などに金銭や不当な要求をした(恐喝、強要、脅迫)、企業や従業員に対して侮辱的な発言や情報発信をした(名誉棄損、信用棄損、侮辱)などの場合には、刑事では、警察に相談して被害届を提出することを考慮します。
民事では、企業側から顧客側に対して損害賠償請求訴訟を提起することを検討します。そのほか、執拗で悪質なカスハラ行為には、訪問や架電の禁止を内容とする仮処分の発令を裁判所に求めることもあり得ます。
2 社員のフォロー
会社としては、カスハラ行為を行った顧客への対処とともに、対応に当たった社員への配慮を求められます。
厚生労働省のパワハラ指針(事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針)では、カスハラに関しても雇用管理上の配慮(①相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備、②被害者への配慮のための取り組み、③被害防止のための取り組み)を行うことが、会社に求められています。
すなわち、担当者に任せきりにするのではなく、上司を含めた複数の社員で情報共有やフォローをしつつ進め、顧客側との面談を複数で行うなど組織として対応していくことが重要です。
3 弁護士に依頼できること
カスハラは、顧客が、自分は顧客だから、何を言っても許されると勘違いして、悪質なクレームや要求をすることに原因があり、主として、顧客側の問題です。
しかし、会社側が、問題が長期化したり、事態がエスカレートすることを恐れて、悪質な要求であることを知りながら、過度な要求を受け入れてきてしまったことにも原因があります。
文字通り、是々非々の態度で臨むのが正しい対応ですが、なかなか当事者である会社の社員は、顧客に対して、そうした態度を取ることができませんので、弁護士に入ってもらい、毅然とした対応を取ることが大切です。
また、悪質な顧客との窓口となる社員を守るためにも、弁護士に依頼して、社員への被害を最小限に留めることが必要です。
青山東京法律事務所は、カスハラ関連の交渉、裁判も担当していますので、悪質なカスハラの被害に遭遇された方は、是非対応の仕方についてご相談下さい。
監修者
植田 統
1981年、東京大学法学部卒業後、東京銀行(現三菱UFJ銀行)に入行。
ダートマス大学MBAコース留学後、ブーズ・アレン・アンド・ハミルトンで経営戦略コンサルティングを担当。
野村アセットマネジメントで資産運用業務を経験し、投資信託協会で専門委員会委員長を歴任。
レクシスネクシス・ジャパン株式会社の社長を務め、経営計画立案・実行、人材マネジメント、取引先開拓を行う。
アリックスパートナーズでライブドア、JAL等の再生案件、一部上場企業の粉飾決算事件等を担当。
2010年弁護士登録後、南青山M's法律会計事務所に参画。2014年に青山東京法律事務所を開設。2018年、税理士登録。
現在、名古屋商科大学経営大学院(MBA)教授として企業再生論、経営戦略論を講義。数社の社外取締役、監査役も務める。