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Ⅲ 執行役員と取締役の違い

最近多くの会社で執行役員が置かれるようになっていますが、その役割、権限、組織上の位置づけ等を正確に理解されていないのが現状です。
多くの会社では、取締役と執行役員は、ほぼ同じものと理解されています。総称として、役員という言葉が使われ、名前こそ違うが、同じものだと理解されているのではないでしょうか。
しかし、本来、取締役は経営の意思決定を行う者、執行役員はその意思決定の下に業務執行をになう者です。

Ⅰ 執行役員導入の背景

バブル経済崩壊後、大手企業の粉飾決算、不祥事が次々に露見し、日本企業のガバナンスを強化しろと言う声が大きくなりました。ガバナンスの進んでアメリカの会社を見習えという声です。
アメリカの会社では、経営の意思決定と業務執行が分離されており、前者を取締役が行い、後者をExecutive office(直訳すれば執行役員)が担うという形が取られています。取締役が、執行役員の業務執行を監督していくという形がとられています。
これを日本に導入したのが、ソニーでした。そして、ソニーに続いて、いくつかの会社が、任意の機関として執行役員を設置するようになりました。移行期には、常務とか専務の役付き取締役が取締役に残り、平取締役が執行役員になるという人事が行われました。
その結果、執行役員の一般の受け止め方は、平取締役と同じという感じになりました。これが、今でも多くの人が取締役と執行役員の区別がつかなくなってしまった原因です。

Ⅱ 執行役員と執行役、取締役との違い

執行役員の役割と組織上の位置づけを見ていくと、執行役員は、執行役(員がない)とも、取締役とも、別物です。

執行役と執行役員は、取締役が決定した重要事項や方針を実行する役割を負っている点では同じですが、会社法上の機関であるかどうか(執行役は会社法上の機関、執行役員はそうでない)が異なります。
そして、執行役は、執行役として登記されるのに対して、執行役員は、社内での役職であり、会社法・商業登記法では従業員として取り扱われます。
現在の会社法では、基本3つのガバナンス形態―①監査役会設置会社(取締役会のほかに監査役会を置く)、②委員会等設置会社(取締役会のほかに指名、報酬、監査委員会を置き、さらに執行役を置く)、③監査等委員会設置会社(取締役会のほかに監査等委員会を置く)が認められていますが、このうち執行役が存在するのは、委員会等設置会社だけです。
執行役員は、監査役会設置会社、監査委員会設置会社にも、その会社が執行役員を設けると決めれば存在します。(委員会等設置会社では、執行役員と同じ役割を担う執行役がいますので、わざわざ執行役員を設けることはないと思われます。)
また、取締役は、会社の重要事項や経営方針を決定する役割を負っている点で、業務執行を行う執行役員、執行役とは異なっています。

Ⅲ 執行役員の契約形態

執行役員は、会社法・商業登記法上で定められている役職ではないため、執行役員の設置を直接的に定めた法律がありません。ですので、会社が自由にその役割や位置づけを決めることができます。
しかし、執行役員は通常は「従業員」に当たるため、労働基準法が適用されることになります。また、執行役員は「重要な使用人」に該当するケースが多いため、その場合は取締役会決議によって選任することが必要です。
執行役員の契約形態は、「委任型」か「雇用型」になっています。
「委任型」は、取締役の雇用形態で一緒となるので、受任者の独立性や専門性を認め、業務の対価として報酬を支払うという考え方に基づいています。委任契約ですので、会社側・受任者双方に解約する自由があり、雇用の保障はありません。
一方、「雇用型」の場合、従業員の雇用形態と同じになりますので、会社の指示に従って業務を遂行し、労働の対価として賃金を支払うということになります。従業員としての雇用の保障がある雇用形態です。

Ⅳ 執行役員の任期

契約形態が任期の決め方に影響してきます。
執行役員の任期は、定めるパターンと定めないパターンの両方が混在します。「委任型」の場合には、取締役と同じく任期を1年とか2年に定めるケースが多いようです。「委任型」ですので、次の取締役会で再任されない限り雇用は係属されません。
「雇用型」の場合は、従業員と同様に就業規則の規定が適用されるため、定年制が適用されるケースが多いようです。任期の途中で定年を迎え「従業員」でなくなった場合には、執行役員としての職務も失うことになります。

Ⅴ 執行役員の契約形態による処遇の違い

勤怠管理についても、「委任型」と「雇用型」は異なります。「委任型」なら勤怠管理は不要ですが、「雇用型」なら勤怠管理を行う必要があります。具体的には、就業規則や執行役員規程に勤怠管理について明確に定めておくべきでしょう。

保険加入についても、「雇用型」であれば、他の従業員と同様に雇用保険・労災保険の対象者となりますが、「委任型」では、「従業員」に当たらないので、保険適用対象外となってしまいます。

執行役員への就任の際の手続きでは、「委任型」の場合は、取締役などの役員と同様に辞令の交付を行い、「就任承諾書」を取り交わすことが一般的です。「雇用型」の場合は、従業員の場合と同じように、辞令の交付だけでもいいのですが、執行役員への就任の意思を明確にするために「就任承諾書」を取り交わす場合もあります。

Ⅵ まとめ

執行役員は、経営の意思決定を行う取締役とは違い、業務執行を行う人です。その契約形態には、委任型と雇用型の2つがありますが、雇用の保証のある雇用型が主流となっているようです。
執行役員の契約形態でお悩みの会社の方は、是非青山東京法律事務所へご相談下さい。

監修者

植田統

植田 統   弁護士(第一東京弁護士会)

東京大学法学部卒業、ダートマス大学MBA、成蹊大学法務博士

東京銀行(現三菱UFJ銀行)で融資業務を担当。米国の経営コンサルティング会社のブーズ・アレン・アンド・ハミルトンで経営戦略コンサルタント。 野村アセットマネジメントでは総合企画室にて、投資信託協会で専門委員会委員長を歴任。その後、レクシスネクシス・ジャパン株式会社の日本支社長。 米国の事業再生コンサルティング会社であるアリックスパートナーズでは、ライブドア、JAL等の再生案件を担当。

2010年弁護士登録。南青山M's法律会計事務所を経て、2014年に青山東京法律事務所を開設。2018年、税理士登録。

現在、名古屋商科大学経営大学院(MBA)教授として企業再生論、経営戦略論の講義を行う他、Jトラスト株式会社(東証スタンダード市場)等数社の監査役も務める。

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