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Ⅵ 日本企業でガバナンスが機能しない理由

日本企業では、毎年のように大きな不祥事が報道されます。最近の事例をあげれば、中井正広の女子アナに対する性加害に端を発したフジテレビのガバナンス問題。一昨年には、トップのジャニー氏が所属タレントに性加害を行ったというジャニーズ問題もありました。ともに共通するのは、会社のトップが関与していた事件であるということです。

こうしたスキャンダル的な不祥事以外に、不正会計事件というのもよく報道されています。2004年のライブドアの虚偽記載問題、2011年のオリンパスによる損失隠し、2015年の東芝の粉飾決算問題です。

ライブドアとオリンパスは会社のトップ自身が引き起こしたものであり、東芝も会社のトップの強烈なプレッシャーに耐えかねた部下が粉飾決算に手を染めるという構図であり、やはり会社のトップの関与を抜きには語れません。

では、なぜ日本企業では、こうした不祥事をガバナンスで防ぐことができないのか。

 

Ⅰ 取締役会における代表取締役(社長)の圧倒的権力

会社法によれば、取締役は株主総会で選ばれます。そして、代表取締役(社長)は、取締役会で選ばれます。そして、解職も、取締役会の多数決で行われます。

ということは、代表取締役は、本来取締役から監視される立場にあるはずです。取締役及び取締役会が上で、代表取締役が下のはずです。

ところが、実際はというと、代表取締役(社長)が上、取締役は下に位置付けられています。

その一番の理由は、取締役は代表取締役(社長)によって選ばれているからです。ほとんどの会社では、代表取締役(社長)の決めた会社提出の取締役選任議案がそのまま通ってしまうのです。減ってきたとは言え、どこの会社でも一定程度の安定株主がおり、一般の個人株主はあまり反対票を投じないので、株主総会での取締役選任議案が通らないということは、まずないからです。

その結果、取締役会のメンバーを見れば、全員が代表取締役(社長)か先代の代表取締役(前社長、現会長)によって、選ばれた者ばかり。取締役会は、代表取締役(社長)派だけで構成されています。

もう少し細かく説明すると、社長は会長によって、社長へ推挙された人ですから、社長になった当座は、実は会長こそが実力者です。

社長は、毎年数名ずつ年配の取締役を退任させ、自分が選んで人を取締役に入れていきますから、社長に就任して3,4年たつと、取締役会を自分が選んだ人が多数を占めるようになってきて、ようやく社長も会長に頭が上がるようになるという構図です。

でも、社長は会長の推挙した人、つまり、会長に最も忠実な人ですから、ここでは会長派とか社長派と言わずに、一くくりにして代表取締役(社長)派と言っておきます。

このようにして、代表取締役(社長)によって選ばれた取締役はどのように行動するのでしょうか。取締役は、代表取締役(社長)に対して恩義を感じており、完全なイエスマンとして振る舞うようになります。

もちろん、取締役も人間ですから、心の中で代表取締役(社長)と違う意見を持つこともあります。しかし、そんなことは、とても言い出せません。周りの取締役全員が、代表取締役(社長)派の人ですから、そんなことを言っても勝ち目はありません。代表取締役(社長)からにらまれたら、次の株主総会で退任させられてしまうので、自分の意見を押し殺して我慢します。

 

Ⅱ トップの関与する不祥事は止められない

こうして、代表取締役(社長)が不正に手を染めてしまうと、誰もチェックできないという状況が生じます。

フジテレビ事件では、港社長が女子アナ上納制度を始めたといいます。ジャニーズ事件は、トップのジャニーさん自身のセクハラ行為で、おそらく周りの人は皆知っていたでしょう。

ライブドアやオリンパスの不正会計事件もしかり。トップが直接関与しているのですから、誰も止めることができないのです。東芝不正会計事件も、原因はトップが部下にかけたプレッシャーにあり、おそらくトップも不正会計に気付いていたのでしょうから、誰にも止められるはずがありません。

 

Ⅲ 不祥事をガバナンスで止めるには、日本的経営スタイルの廃止が必要

こうした代表取締役(社長)が圧倒的権力を持っているという構図が、トップの関与する不祥事を引き起こしているのですから、それを変えるしかありません。

取締役と取締役会を、代表取締役(社長)の監視機関として正常に機能するようにしていくことが必要です。

そのためには、本当に独立した社外取締役の選任、さらに社外取締役がものを言えるようにするためには、取締役の過半数を社外取締役とするべきだと思います。

本当に独立したと言えるためには、今選んでいるような現役をリタイアし、他に収入源がなくなったサラリーマン経営者等を社外取締役にするのではなく、現役で他に収入の道があり、社外取締役をクビになっても困らない人、オーナー経営者のOBのようなお金に不自由のない人を社外取締役に起用するべきでしょう。

それに加えて、社外取締役には、社外取締役として身に着けておかなければならない知識を与えるべく、トレーニングの機会を与えるべきだと思います。多くの会社で、財務諸表の読めない社外取締役、法律のわからない社外取締役がいるという現実があります。そうした人には勉強の機会を与え、企業経営を最低限分析し、理解することができるだけの知識とスキルを与えていかなければならないと思います。

もちろん社内取締役にも、同様の勉強の機会を与えることは必要です。営業しかやったことがない人、研究開発しかやったことがない人では、会計も法律も知識を持ち合わせていないからです。

また、最近では、取締役の任期を1年とする会社が増えてきましたが、取締役の身分を安定させるために、2年へ戻していくべきだと思います。

最後に、取締役会の運営方法です。取締役会前の事前議案送付と事前議案説明、取締役会以外のインフォーマルな場での情報提供、取締役会の場での意見陳述の機会提供等を地道に行っていく必要があると思います。

 

Ⅳ 企業統治・ガバナンス・コンプライアンスの問題は青山東京法律事務所へ

企業統治・ガバナンス・コンプライアンスは、企業経営の根幹であり、どの企業もここを強化することなくしては、芯の通ったしっかりとした経営を行っていくことはできません。

代表の植田弁護士は、現在上場企業も含め、いくつかの監査役等を務め、日夜、企業統治・ガバナンスの問題に直面しています。また、弁護士として、役員・社員の法令違反の問題の解決に当たることも多く、コンプライアンスの問題を取り扱っています。

企業統治・ガバナンス・コンプライアンスの問題で悩みをお持ちの企業の方は、是非青山東京法律事務所へご相談下さい。

監修者

植田統

植田 統   弁護士(第一東京弁護士会)

東京大学法学部卒業、ダートマス大学MBA、成蹊大学法務博士

東京銀行(現三菱UFJ銀行)で融資業務を担当。米国の経営コンサルティング会社のブーズ・アレン・アンド・ハミルトンで経営戦略コンサルタント。 野村アセットマネジメントでは総合企画室にて、投資信託協会で専門委員会委員長を歴任。その後、レクシスネクシス・ジャパン株式会社の日本支社長。 米国の事業再生コンサルティング会社であるアリックスパートナーズでは、ライブドア、JAL等の再生案件を担当。

2010年弁護士登録。南青山M's法律会計事務所を経て、2014年に青山東京法律事務所を開設。2018年、税理士登録。

現在、名古屋商科大学経営大学院(MBA)教授として企業再生論、経営戦略論の講義を行う他、Jトラスト株式会社(東証スタンダード市場)等数社の監査役も務める。

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