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Ⅳ 労働問題-副業禁止
目次
1.副業の現状
副業とは、メインとなる本業とは別の仕事によっても収入を得るという働き方のことをいいます。あくまで本業がメインであることを前提に置いており、二社に同時に勤める「二重就業」、「ダブルワーク」とは異なります。
どのような副業があるかと言えば、古典的には、キャバクラ・ホストなど水商売でのバイト、マルチネットワークの勧誘、インターネット全盛の現代では、Youtuber・Vtuber、ライブ配信、チャット配信、インターネット上の作品売買、撮影した画像の販売、転売・セドリ、クラウドソーシングサービスでの受託、Uber eatsなどのデリバリー配達が多くなっています。
企業側が副業を社員に許すのがトレンドのように見られていますが、「本業と副業の労働時間をどう計算するか」のように、労務管理上クリアしなければならない難しい法律問題も生まれてきており、従来通り、副業の禁止を維持している会社も多数あります。
しかし、よく考えてみると、社員にとって、業務時間外はプライベートな時間であり、会社の業務命令権が及ばないので、プライベートな時間を使って副業、兼業するのは自由に許されるのが基本です。憲法上でも、「職業選択の自由」(憲法22条1項)を保障されています。
2.副業禁止規定
副業を禁止するためには、「副業禁止」を労働契約の内容にしなければなりません。労働契約の内容は、雇用契約書、就業規則などに定める必要があり、10人以上の社員を使用する事業場では、就業規則を労働基準監督署に届出なければならないため、「副業禁止」も就業規則に定めをおくのが通例です。
就業規則に、副業・兼業の禁止と題して、「従業員は、会社の許可なく他の営業、事業に従事してはならない。」とされています。もう少し緩く、副業・兼業の許可制を定めている会社もあります。
具体的には、「従業員は、他の営業、事業に従事するときは、事前に書面による会社の許可を得なければならない。」と定められており、許可を求めるときは、別途会社の定める手続きに従うものとされています。
副業・兼業の禁止に関する規定への違反については、懲戒解雇事由としておくのが一般的です。懲戒解雇とするときには、弁明の機会の付与、懲戒委員会の開催など、手続きの整備も必要です。
3.副業禁止の違反で、解雇できるケース
「本来、副業は自由」ですが、本業に支障がある副業など、禁止する必要性の高いときには、労働者の自由を制限できます。
そのため、禁止する必要性の高い副業に限定すれば、「副業禁止」を定める就業規則も有効であり、違反した社員を懲戒処分にし、解雇することも可能です。
企業秩序に支障が生じる副業として禁止でき、解雇などの処分を下せるのは、次の場合です。
・業務時間中の副業
・本業の遂行に支障をきたす副業
・競合他社での副業
・情報漏えいのおそれある副業
・社会的信用を低下させる副業
4.副業禁止の違反でも解雇できないケース
「本来、副業は自由」ですから、副業禁止を定められるのは、本業への支障がとても大きい副業に限られており、就業規則で副業禁止と定めておいても、これに違反した社員を必ずしも解雇できない場合もあります。
無理やり解雇してしまうと、「解雇権濫用法理」のルールにより、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」(労働契約法16条)は、権利を濫用した「不当解雇」として無効となるため、慎重な配慮を要します。
労働法では、解雇権濫用法理というものがあり、副業禁止の会社でも、業務時間外に行われており、かつ、業務への支障の少ない副業であれば、禁止することはできず、解雇、懲戒処分なども不適切です。
本業の業務に与えた支障については、解雇する前に、会社側でしっかり検討し、解雇理由書を作成するなどして練りあげておく必要があります。
副業していたことを会社が知りながら黙認していたケースでも、解雇は無効とされる可能性が高いので要注意です。
「副業の許可制」を定めている場合でも、業務への支障の少ない副業をすべて一律に不許可としたり、解雇、懲戒処分などの制裁を下したりする運用は、違法と評価されるリスクあります。
5.副業の禁止に違反した社員への対応と、解雇までの流れ
副業禁止としていたにもかかわらず、社員の副業が発覚したとき、会社側がとるべき対応は次のようなものです。
・本業における注意指導を徹底する
・副業をやめなければ懲戒処分を下す
・解雇前に退職勧奨し、合意退職とする
6.副業禁止の違反を理由とした解雇について判断した裁判例
副業禁止とし、違反を理由として解雇を検討するとき、裁判例が参考になります。有効と判断した例、無効と判断した例のいずれもがありますので、どのような事情が、裁判所の判断で重視されているのかを見ていきましょう。
(1)解雇有効とした裁判例
ア 小川建設事件(東京地裁昭和57年11月19日決定)
兼職を許可制とする会社で、無断でキャバレーで働いたという二重就職を理由にされた解雇について、有効なものと判断。
問題となったキャバレーでの労働は、本業の就業時間とはかぶってはいないものの、毎日6時間にわたり、かつ深夜であり、単なるアルバイトの域を超えており、本業への支障が大きいことなどが考慮要素とされた。
イ ナショナルシューズ事件(東京地裁平成2年3月23日判決)
商品部長という重要な役職にありながら、同業の靴小売店を自ら経営していたこと、本業の取引先に金品を要求し、受け取っていたことなどの悪質な副業について、解雇を有効なものと判断。
これらの問題行為が、数年前に行われたものであり、しばらく経過してから発覚したこと、懲戒歴がないことといった事情を考慮してもなお、副業にともなう悪質性を重視しての判断。
ウ 東京貨物社事件(東京地裁平成12年11月10日判決)
営業担当課長が、本業と競合する業務によって対価を得たという副業が問題となる。裁判所は、受注を横流ししていた点などの悪質性を考慮して、出勤停止の懲戒処分、解雇をいずれも有効なものと判断。
しかし、本裁判例では、担当者変更の通知といえる範囲を超えて、解雇したことについて取引先に広く伝えた点は違法だとして、会社に慰謝料30万円の支払いを命じている点には注意が必要。
(2)解雇を無効と判断した裁判例
ア 十和田運輸事件(東京地裁平成13年6月5日判決)
家電配送業務を行う会社の社員が、家電製品の払い下げを受けてリサイクル部に販売して対価を受けたこと、これらの行為が勤務時間中に、本業の会社の車両を使用して行われたことが、職務専念義務違反、就業規則違反だとして懲戒解雇された事案。
アルバイト行為の回数が少なく、年に1,2回に過ぎなかったこと、本業の業務に支障が生じてはいなかったこと、会社も副業を知っており少なくとも黙認していたといえること、といった事情から、解雇を無効と判断。
7 副業禁止違反による解雇での退職金を不支給・減額
懲戒解雇とするときには、退職金を不支給ないし減額すると就業規則に定める会社が多いですが、悪質性の高い副業禁止違反などのように、懲戒解雇が有効になるほど大きな問題点があっても、退職金を不支給にしたり、減額したりできるかは、さらに慎重に考えなけれる必要があります。
なぜなら、裁判例では、「それまでの勤続の功を抹消または減殺するほどの著しい背信行為」がないと、退職金を不支給・減額してはならないと判断されているからです(東京地裁平成18年5月31日判決など)。
副業禁止違反を理由とした解雇で、退職金を減らすことができるのは、例えば、競合他社での副業や、機密情報の漏えい、顧客の引き抜きといった手法によって、現実的に本業に損失を生じさせたことが明らかなケースに限られます。
監修者
植田 統
1981年、東京大学法学部卒業後、東京銀行(現三菱UFJ銀行)に入行。
ダートマス大学MBAコース留学後、ブーズ・アレン・アンド・ハミルトンで経営戦略コンサルティングを担当。
野村アセットマネジメントで資産運用業務を経験し、投資信託協会で専門委員会委員長を歴任。
レクシスネクシス・ジャパン株式会社の社長を務め、経営計画立案・実行、人材マネジメント、取引先開拓を行う。
アリックスパートナーズでライブドア、JAL等の再生案件、一部上場企業の粉飾決算事件等を担当。
2010年弁護士登録後、南青山M's法律会計事務所に参画。2014年に青山東京法律事務所を開設。2018年、税理士登録。
現在、名古屋商科大学経営大学院(MBA)教授として企業再生論、経営戦略論を講義。数社の社外取締役、監査役も務める。