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Ⅷ 大家都合で賃借人を退去させる場合の立ち退き料相場

1 契約期間中に大家都合で建物賃借人を退去させることは難しい

賃貸借契約は、賃貸人・賃借人間の対等な契約であるため、賃貸人側の一方的な都合で中途解約することはできません。

 

賃借人が立ち退きを拒否しているにもかかわらず、賃貸人の一方的な都合で賃貸借契約を解約することは認められておらず、契約期間の途中で建物賃貸借契約を解約するには、賃貸人・賃借人の合意が必要となります。

 

ただし、賃料の滞納など、賃借人による債務不履行が発生している場合には、賃貸人側から賃貸借契約を解除できて、立ち退きを求めることができる場合があります。

2 期間満了時の更新拒絶には正当事由が必要

期間満了時の契約更新拒絶についても、借地借家法により強い制限がかかっています。

 

まず、借地借家法26条1項によると、賃貸人から期間満了に伴う契約更新拒絶をする前提として、期間満了の1年前から6か月前までの間に、賃借人に対して更新拒絶の旨を通知する必要があります。

 

これに加えて、賃貸人側から期間満了に伴い賃貸借契約の更新を拒絶する場合、「正当の事由」を備えていなければなりません。

 

その「正当の事由」が認められるかどうかは、以下の事情を総合的に考慮して判断されます。

 

・賃貸人および賃借人が建物の使用を必要とする事情

・建物の賃貸借に関する従前の経過

・建物の利用状況

・建物の現況

・賃貸人による立ち退き料支払いの申出

 

過去の裁判例からみると、単に賃貸人が建物を使用する必要があるというだけでは、更新拒絶の正当事由は認められにくく、一定の立ち退き料の支払いが必要とされるケースが多いようです。

3 退去交渉時に提示する「立ち退き料」の効果

このように、賃貸人側の事情による立ち退きには立ち退き料の支払いが必要となるというのが過去の裁判例ですので、賃貸人から賃借人に立ち退き料を提示することが普通に行われています。

 

賃借人としては、引っ越し費用等をまかなうことができるので、合意解約に応じやすくなります。

 

賃貸人としては、立ち退き交渉がうまくいかず、将来訴訟になった時に、「正当事由」の存否の判断において、適正な立ち退き料を提供していたことが有利に勘案されることになります。

4 大家都合の立ち退き料の相場

大家都合で賃借人を退去させる場合の立ち退き料は、賃貸人にとってかなり負担の大きな金額になる可能性があります。

 

(1) 立ち退き料を決定する主な要素

立ち退き料は、賃借人が立ち退くことによって被る損害を補填するという意味合いがあり、以下のような要素が考慮されます。

 

・建物の用途(居住用、店舗用、オフィス用等)

・(営業用物件の場合)移転によって見込まれる減収幅

・建物の賃料水準と近隣の賃料水準(賃料の〇か月分などと決まることが多い)

・建物を解体する必要性(老朽化の程度)

・賃借人の健康状態(転居が大きな負担になる場合等)など

(2) 物件の用途別の立ち退き料目安

具体的な立ち退き料の金額は、裁判所では、前述の要素を総合して、個別具体的に決定されますが、大まかに言えば、以下のような水準となっており、建物の用途によって、大きく異なります。

 

居住用物件(マンション、アパート、戸建て):賃料の6か月分~12か月分程度

店舗用物件:賃料の5年分~10年分程度

オフィス用物件:賃料の2年分~4年分程度

5 賃貸人が立ち退き料交渉に臨む際のポイント

賃貸人としては、立ち退き料の負担をできる限り抑えるため、次のポイントについて、十分に準備をしてから、交渉に臨むべきです。

 

(1) 金額の根拠を示して交渉する

賃借人に納得してもらうため、前述の立ち退き料を決定する要素や、物件の用途別の立ち退き料相場を踏まえたうえで、合理的に説明する。

(2) 譲歩可能なラインを決めておく

賃借人との交渉がまとまらず、訴訟に発展してしまうと、時間と費用がかかることになりますので、それを考慮して、譲歩してもよいと考える金額をあらかじめ考えておくべきでしょう。

6 弁護士に交渉を任せるのがお勧め

立ち退き料の交渉を、賃貸人が自ら行う場合、多大な時間と労力を取られてしまいますので、弁護士に依頼することをお勧めします。

 

立ち退き料交渉に詳しい弁護士に相談すれば、裁判例等を踏まえて適正な立ち退き料の金額を算出しつつ、できる限り賃貸人に有利な条件で立ち退きが実現できるようにサポートいてもらえます。

 

青山東京法律事務所では、立ち退き料交渉に詳しい弁護士が在籍していますので、お気軽に電話、または、メールでご相談ください。

監修者

植田統

植田 統

1981年、東京大学法学部卒業後、東京銀行(現三菱UFJ銀行)に入行。
ダートマス大学MBAコース留学後、ブーズ・アレン・アンド・ハミルトンで経営戦略コンサルティングを担当。
野村アセットマネジメントで資産運用業務を経験し、投資信託協会で専門委員会委員長を歴任。
レクシスネクシス・ジャパン株式会社の社長を務め、経営計画立案・実行、人材マネジメント、取引先開拓を行う。
アリックスパートナーズでライブドア、JAL等の再生案件、一部上場企業の粉飾決算事件等を担当。
2010年弁護士登録後、南青山M's法律会計事務所に参画。2014年に青山東京法律事務所を開設。2018年、税理士登録。
現在、名古屋商科大学経営大学院(MBA)教授として企業再生論、経営戦略論を講義。数社の社外取締役、監査役も務める。

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