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事業承継・M&A(Ⅳ)-自社株評価を下げる方法

自社株の評価額が高額になると、事業承継をするにも、相続税が支払えなくなる、後継者が自社株を購入できなくなるという問題を生じます。

それにもかかわらず、自社株は換金性の乏しい財産であるので、その価格を少しでも下げることで後継者の税負担、資金負担を軽くし、経営に悪影響が出ないようにしておく必要があります。

Ⅰ 自社株の評価方法

自社株の評価額は、上場企業であれば証券取引所で株の売買がされていることから、株価がいくらであるかはすぐにわかります。

上場していない会社については、取引する市場がありませんので、国税庁が作成している「財産評価基本通達」の「取引相場のない株式等の評価」を基準にして評価することになっています。

会社の規模や株主によって評価方法が違い、同族株主の場合は、「類似業種比準価額方式」、「純資産価額方式」もしくはその両方を使って評価します。

(1)類似業種比準価額方式とは

「類似業種比準価額方式」とは、上場している同業者の株価、配当金、利益、純資産を元に計算する方法です。配当金、利益、純資産を少なくすることで自社株の評価額を下げることができます。具体的には、役員退職金の支給、高収益部門を分離すること、特別配当や記念配当を活用することなどが挙げられます。

(2)純資産価額方式とは

「純資産価額方式」は会社を解散させた場合に株主が受け取ることのできる金額を計算し、それを元に株価を評価する方法です。この場合、純資産が少なくなるほど自社株の評価額は低くなります。具体的には時価と相続税評価額の乖離が大きい不動産を購入したり、役員退職金を支給する方法などがあります。

Ⅱ 自社株の評価が上がる要因

自社株の評価があがる要因としては、次のようなものがあります。

・創業時から積み上げてきた利益がある

・製造における技術力が高いため自社でしか作れない製品がある

・保有している設備や機械、建物の資産価値が高い

・以前購入した有価証券が値上がりしている

・会社が所在する土地の値段が高騰している

これらは会社における純資産額の上昇に繋がるため、結果として自社株の評価額を押し上げる要因になるのです。

Ⅲ 自社株の評価額を下げるための方法

自社株の評価額を下げるためには、以下のような方法が考えられます。

(1)現経営者の引退時に退職金を支払う

創業時から事業を継続してきた経営者は、退職金を受け取ること自体をためらうケースがあります。しかし、会社にとって退職金を支払うということは利益が減少するということです。これは、会社の財産が減ったと言い換えることもできますから、結果として株価を下げる要因になると言えます。

事業承継に伴う組織再編によって、退任する現経営者や古参の役員への退職金を支払うことは、自社株の対策に繋がります。

(2)不動産を購入する

土地や建物を購入すると資産として計上されるため、株価には影響がないように思いがちです。しかし、土地の評価額は時価の70%程度、建物に関しては60%程度と、現金よりも低く評価されることもあるため、純資産価額を引き下げる効果があります。会社が現金を持ったままでいるよりも、不動産にすることで節税効果が期待できます。

(3)減価償却費を計上する

会社の資産である設備や機械、パソコンやプリンターなどは、購入から時間が経つにつれて劣化するのは避けられません。このように劣化によって下がっていく資産価値を、費用として計上することを減価償却と言います。

減価償却費の計上は費用が増えるということになるため、結果として株価の評価額を下げる効果があります。設備や機械の入れ替えが必要な場合で、多額の除却損が計上できるときは、後継者に事業を引き継ぐ前に、設備や機械を入れ替えることがポイントです。

(4)生命保険を活用する

生命保険を法人で契約している場合、保険料を損金として計上することができます。結果として利益の圧縮にも繋がることから、自社株の評価額を下げる効果があります。

会社の資金が潤沢な場合は、複数の生命保険に加入することで、その分を損金計上することも可能となります。生命保険は、退職金の資金とすることもできますし、万が一のことがあった場合にまとまった保険金が入るため、納税資金に充てたり、遺族に残したりすることもできます。

(5)業績悪化時における自社株の贈与・譲渡は有効か

業績が悪化しているからといって、事業承継のタイミングにふさわしくないとは言い切れません。業績が厳しい時期や不景気時においては、会社の儲けが少なくなり、利益も低くなる傾向にあります。

自社株の評価額を算出する際には、会社の利益、配当、保有する資産の評価額が大きく影響します。従って、業績悪化時は資産価値が低くなる可能性が高いため、自社株の評価額も自ずと低くなる傾向にあります。会社の置かれている状況にもよりますが、業績悪化時の贈与・譲渡は有効になる場合があります。

Ⅳ 事業承継を成功させる秘訣

自社株の評価額について何も対策をしないと、後継者の納税負担が大きくなる可能性があります。納税は、会社の経営状態が赤字であろうと黒字であろうと行わなければなりません。評価額の算出や税制などについては、専門家のアドバイスを受けるようにしましょう。

Ⅴ 事業承継・M&Aのご相談は青山東京法律事務所へ

青山東京法律事務所では、顧問先のクライアントから事業承継やM&Aについて多数の相談を受けています。

クライアントの皆さんにとっては、事業承継もM&Aも初めての経験ですので、全体像を理解していただくところから始め、その具体的方法論や各方法のメリット・デメリットについても、丁寧にご説明させていただいています。

事業承継、M&Aは、経営戦略そのものですので、代表の植田弁護士の持つ経営コンサルタントとしての経験に基づくアドバイスも高く評価されています。

事業承継、M&Aを考えている方は、是非青山東京法律事務所へご相談ください。

監修者

植田統

植田 統   弁護士(第一東京弁護士会)

東京大学法学部卒業、ダートマス大学MBA、成蹊大学法務博士

東京銀行(現三菱UFJ銀行)で融資業務を担当。米国の経営コンサルティング会社のブーズ・アレン・アンド・ハミルトンで経営戦略コンサルタント。 野村アセットマネジメントでは総合企画室にて、投資信託協会で専門委員会委員長を歴任。その後、レクシスネクシス・ジャパン株式会社の日本支社長。 米国の事業再生コンサルティング会社であるアリックスパートナーズでは、ライブドア、JAL等の再生案件を担当。

2010年弁護士登録。南青山M's法律会計事務所を経て、2014年に青山東京法律事務所を開設。2018年、税理士登録。

現在、名古屋商科大学経営大学院(MBA)教授として企業再生論、経営戦略論の講義を行う他、Jトラスト株式会社(東証スタンダード市場)等数社の監査役も務める。

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