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Ⅰ コーポレートガバナンスとは
通常、コーポレートガバナンスは「企業統治」と訳されています。金融庁が発表している「コーポレートガバナンス・コード改訂案」におけるコーポレートガバナンスの定義は以下の通りです。
目次
Ⅰ コーポレートガバナンス・コードの定義
「本コードにおいて、「コーポレートガバナンス」とは、会社が、株主をはじめ顧客・従業員・地域社会等の立場を踏まえた上で、透明・公正かつ迅速・果断な意思決定を行うための仕組みを意味する。
企業は株主に最大限の利益を還元しつつ、自らの価値を向上させなければなりません。そのためには、株主をはじめとした様々なステークホルダー(関係者)の利害を踏まえ、企業を適切に運営・発展させる仕組みが必要になります。その仕組みが、コーポレートガバナンスなのです。
たとえば、企業が不祥事を起こすと、その影響はすぐに株価に表れます。株価が下落すれば、株主に最大限の利益を還元することはできません。企業が適切に経営されるためには、外部からその企業を監視する機関(社外取締役や監査役、監査委員会など)を置いたり、社内ルールを徹底したりする必要があります。企業統治が健全に回っている状態を「コーポレートガバナンスが保たれている」などと言いますが、企業にとってコーポレートガバナンスは常に意識するべきものなのです。」
「コーポレートガバナンス・コード~会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上のために~(改訂案)」(2021年04月 金融庁)
株主以外に顧客、従業員、地域社会等をステークホルダーとして挙げていますが、株主の利益を守ることを中心に置いています。
Ⅱ コーポレートガバナンス・コードの制定の背景
2014年6月24日、「『日本再興戦略』改訂2014-未来への挑戦-」が閣議決定され、コーポレートガバナンスの強化について「持続的成長に向けた企業の自律的な取組を促すため、東京証券取引所が新たにコーポレートガバナンス・コードを策定する」と明示されました。
「持続的成長に向けた企業の自律的な取組」とは、企業が中長期で資本生産性(ROE(Return on Equity)、ROIC(Return on Invested Capital)等の指標)を向上させ、グローバル競争に打ち勝つ強い企業経営力を取り戻す取り組みのことを指しています。企業収益力の強化により、雇用機会の拡大、賃金の上昇、配当の増加等の好循環を生み出すことが期待されていたのです。
こうした動きを受けて、金融庁と東京証券取引所は、共同事務局として2014年8月から2015年3月にかけて「コーポレートガバナンス・コードの策定に関する有識者会議」を開催、「コーポレートガバナンス・コード原案」をまとめました。
Ⅲ コーポレートガバナンス・コードの特徴
コーポレートガバナンス・コードの特徴は、プリンシプルベース・アプローチ(原則主義)とコンプライ・オア・エクスプレイン(comply or explain、遵守するか、遵守しなければ説明をする)の手法を採用したところにあります。
プリンシプルベース・アプローチとは、原則のみを定め、細部はそれぞれの企業に任せるという考え方です。それぞれの企業は各原則の趣旨や精神を理解した上で、自社の状況を踏まえて判断・適用することになりました。株主などのステークホルダーがその妥当性を評価し、企業はステークホルダーとの対話を通じて自律的に修正することが求められたのです。
もうひとつの特徴は、コンプライ・オア・エクスプレイン(comply or explain)という考え方です。これは全ての原則に対する遵守義務はなく、なぜ遵守しないかを説明すればよい、というものであり、原則を実施しない場合、その理由を十分に説明し、株主などを納得させればよいとしたのです。つまり、それぞれに企業は、自社の事情に照らし合わせ、遵守することが適当でないと判断されれば、遵守しないことは許容されることとなりました。
このように、すべての原則を一律に実施する必要はなく、一部を実施していないからといって、その企業において実効的なコーポレートガバナンスが実現されていないということにはならないとされました。
Ⅳ コーポレートガバナンス・コードの構成
コーポレートガバナンス・コードは「株主の権利・平等性の確保」「適切な情報開示と透明性の確保」「取締役会等の責務」など、5つの基本原則から構成されており、その下には、さらに細かく31の原則と47の補充原則の、総数83もの原則が示されました。その章立ては以下のようなものになっています。
第1章 株主の権利・平等性の確保
【基本原則1】
【原則1ー1.株主の権利の確保】
【原則1ー2.株主総会における権利行使】
【原則1ー3.資本政策の基本的な方針】
【原則1ー4.政策保有株式】
【原則1ー5.いわゆる買収防衛策】
【原則1ー6.株主の利益を害する可能性のある資本政策】
【原則1ー7.関連当事者間の取引】
第2章 株主以外のステークホルダーとの適切な協働
【基本原則2】
【原則2ー1.中長期的な企業価値向上の基礎となる経営理念の策定】
【原則2ー2.会社の行動準則の策定・実践】
【原則2ー3.社会・環境問題をはじめとするサステナビリティーを巡る課題】
【原則2ー4.女性の活躍促進を含む社内の多様性の確保】
【原則2ー5.内部通報】
【原則2ー6.企業年金のアセットオーナーとしての機能発揮】
第3章 適切な情報開示と透明性の確保
【基本原則3】
【原則3ー1.情報開示の充実】
【原則3ー2.外部会計監査人】
第4章 取締役会等の責務
【基本原則4】
【原則4ー1.取締役会の役割・責務(1)】
【原則4ー2.取締役会の役割・責務(2)】
【原則4ー3.取締役会の役割・責務(3)】
【原則4ー4.監査役及び監査役会の役割・責務】
【原則4ー5.取締役・監査役等の受託者責任】
【原則4ー6.経営の監督と執行】
【原則4ー7.独立社外取締役の役割・責務】
【原則4ー8.独立社外取締役の有効な活用】
【原則4ー9.独立社外取締役の独立性判断基準及び資質】
【原則4ー10.任意の仕組みの活用】
【原則4ー11.取締役会・監査役会の実効性確保のための前提条件】
【原則4ー12.取締役会における審議の活性化】
【原則4ー13.情報入手と支援体制】
【原則4ー14.取締役・監査役のトレーニング】
第5章 株主との対話
【基本原則5】
【原則5-1.株主との建設的な対話に関する方針】
【原則5-2.経営戦略や経営計画の策定・公表】
Ⅴ 2021年の改訂について
2021年、より高度なガバナンス(統治)を目指してコーポレートガバナンス・コードの改訂が行われました。改定のポイントは以下の通りです。
(1)取締役会の機能発揮
プライム市場の上場企業は、独立社外取締役を3分の1以上選任する
経営戦略上の課題に照らして取締役会が備えるべきスキルを特定し、それに対応する取締役の有するスキルを開示する など
(2)企業の中核人材における多様性(ダイバーシティ)の確保
女性・外国人・中途採用者の管理職への登用など、中核人材の多様性の確保についての考え方と目標を設定し、その状況を開示する など
(3)サステナビリティ(ESG要素を含む中長期的な持続可能性)を巡る課題への取り組み
取締役会は自社のサステナビリティを巡る取り組みについて基本的な方針を策定し、開示する など
(4)その他個別の項目
グループガバナンスの在り方
監査に対する信頼性の確保及び内部統制・リスク管理
株主総会関係
上記以外の主要課題
ここまで見てきたように、我が国におけるコーポレートガバナンス強化の取り組みは、上場企業を中心に、株主の利益を守るために、取締役会の実効性をどのように確保するかという観点から進められてきています。
Ⅵ 企業統治・ガバナンス・コンプライアンスの問題は青山東京法律事務所へ
企業統治・ガバナンス・コンプライアンスは、企業経営の根幹であり、どの企業もここを強化することなくしては、芯の通ったしっかりとした経営を行っていくことはできません。
代表の植田弁護士は、現在上場企業も含め、いくつかの監査役等を務め、日夜、企業統治・ガバナンスの問題に直面しています。また、弁護士として、役員・社員の法令違反の問題の解決に当たることも多く、コンプライアンスの問題を取り扱っています。
企業統治・ガバナンス・コンプライアンスの問題で悩みをお持ちの企業の方は、是非青山東京法律事務所へご相談下さい。
監修者
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植田 統 弁護士(第一東京弁護士会)
東京大学法学部卒業、ダートマス大学MBA、成蹊大学法務博士
東京銀行(現三菱UFJ銀行)で融資業務を担当。米国の経営コンサルティング会社のブーズ・アレン・アンド・ハミルトンで経営戦略コンサルタント。
野村アセットマネジメントでは総合企画室にて、投資信託協会で専門委員会委員長を歴任。その後、レクシスネクシス・ジャパン株式会社の日本支社長。
米国の事業再生コンサルティング会社であるアリックスパートナーズでは、ライブドア、JAL等の再生案件を担当。
2010年弁護士登録。南青山M's法律会計事務所を経て、2014年に青山東京法律事務所を開設。2018年、税理士登録。
現在、名古屋商科大学経営大学院(MBA)教授として企業再生論、経営戦略論の講義を行う他、Jトラスト株式会社(東証スタンダード市場)等数社の監査役も務める。