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製造業の法律問題(Ⅰ)-取引先が倒産しそうなときの債権回収の手段
あなたの会社が商品を納入している取引先-ここではA社としておきましょう-が倒産しそうなとき、どう対応したらよいのでしょうか。少しでも多く債権回収できるようにするにはどうしたらよいのでしょうか。
目次
Ⅰ まずは情報の確認から
A社の支払いが滞っている等の情報をキャッチしたら、すぐに情報を確認しましょう。A社と取引をしている会社に問い合わせてみる、実際にA社を訪れて通常通り営業が行われているかを確認します。A社の社長と親しいなら、直接聞いてみるという選択肢もあります。1週間、2週間となにもせずに様子を見るのではなく、とにかく即座に行動するのです。
そして、A社の様子が本当におかしい、かなりの支払いが滞っているということが確認できたら、次のような手を打っていきましょう。
Ⅱ 担保の差し入れ、保証人の追加
A社の社長が、「お宅への支払いは必ずするから、商品の納入を止めないでくれ」と言ってきた時には、現金取引に移行するのが、第一の選択肢です。しかし、現実には支払いが滞っているA社が現金払いをすることはできないと思います。
その場合には、担保を入れてもらう、保証人を追加してもらうことを考えます。ただ、A社の支払いが滞っている状態を考えると、銀行に不動産等のめぼしい財産は担保を付けられている、社長個人も既に銀行に連帯保証を取られているので、新たに連帯保証をしてもらっても役に立たない場合が多いというのが実情です。
つまり、かなりレアなケースで無い限り、担保の差し入れ、保証人の追加は難しいでしょう。
Ⅲ 公正証書の作成
次に考えられるのは、公正証書の作成です。
通常の契約書では、訴訟を起こし確定判決を得ないと相手方の財産を差押たりすることができませんが、公正証書を作成しておけば、いきなり相手方の財産を差押え、換価することができます。その点で、公正証書は債権の保全を図る機能が高いのです。
Ⅳ 仮差押え
さらに考えられる方法は、A社の財産に対して仮差押えを行うことです。
仮差押えは、本訴を起こす前にA社の財産が処分されないように、仮にその財産を差し押さえておく手続です。仮差押えが終わった後には、本訴を起こし、確定判決を取って、仮差押えで押さえた財産を差押え換価していくことになります。
ただし、A社がその前に破産開始決定を得てしまうと、仮差押え、差押えの効力はなくなり、一般債権者として配当を受けていくことになってしまいますので、できるだけ早く仮差押え→本訴→確定判決→差押の手続きを取ることが必要です。
Ⅴ 代物弁済
A社が商品等換価できるものを所有していれば、その譲渡を受け、それをA社に対して持つ債権の弁済にあてることも可能です。これを代物弁済といいます。
Ⅵ 債権譲渡
A社が取引先に対して売掛金等の債権を持っていれば、その譲渡を受けて、A社に対して持つ債権の支払にあてることも可能です。 債権譲渡を受ける場合には、A社から債権の譲渡を受けたうえ、A社からその取引先に確定日付付きの債権譲渡の通知書を出してもらいます。
ただし、A社の支払停止後に代物弁済や債権譲渡を行った場合、その後A社が破産したときには、他の債権者との平等を害するとして破産法上の否認権の行使対象となります。その結果、代物弁済、債権譲渡の効果が否定されてしまいますので注意が必要です。
Ⅶ 相殺
こちらがA社に対して買掛金などの債務を負担している場合には、互いの債権債務を対当額で相殺することによって、代金債権の支払を受けたと同様の効果を得ることができます。これを相殺と言います。その際には、相殺通知書を配達証明付内容証明郵便で出しておく必要があります。
この相殺はかなり広い範囲で認められますが、A社の破産手続開始決定後、あるいは、支払停止を知った後、または破産の申立を知った後などに、新たに負担した債務、新たに取得した債権との相殺は、原則として禁止されていますので注意が必要です。
Ⅷ 商品の引き上げ
代金完済まで所有権を売主に留保する取り決めをしている場合には、A社から商品を引き上げることも可能です。そのような所有権留保の取り決めがない場合には、その商品の売買契約を、代金不払いを理由に債務不履行解除、または買主A社との間で合意解除をして、商品の返還を求めることも可能です。その際には、後々問題にならないよう、A社の立ち合いのもと、文書にA社の署名押印をもらっておくようにしましょう。
Ⅸ 動産売買先取特権の活用
既にA社に商品を売却してしまったので、その商品の所有権はA社に移転しているという場合には、その売買代金を被担保債権として動産売買先取特権を行使することができます。動産売買先取特権とは、動産を売却した者が、その動産の代金と利息について、その動産から、他の債権者に優先して弁済を受けることができる法定担保物権です。
この動産売買先取特権は、破産手続において別除権(破産手続外で行使できる。つまり、あなたの会社が単独で行使できるということ)として扱われるため、債務者であるA社が破産しても、あなたの会社はこの権利を行使できます。
このように取引先A社に商品を納入したのに、売買代金の回収が済まないうちに、A社の支払いが滞っているという情報が入ったという場合には、色々な手続きの選択肢がありえます。どれを採用するかは、その時の状況によって決まってきますので、事実関係をよく分析して、最適な方法を迅速に講じていくことが大切です。
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監修者
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植田 統 弁護士(第一東京弁護士会)
東京大学法学部卒業、ダートマス大学MBA、成蹊大学法務博士
東京銀行(現三菱UFJ銀行)で融資業務を担当。米国の経営コンサルティング会社のブーズ・アレン・アンド・ハミルトンで経営戦略コンサルタント。
野村アセットマネジメントでは総合企画室にて、投資信託協会で専門委員会委員長を歴任。その後、レクシスネクシス・ジャパン株式会社の日本支社長。
米国の事業再生コンサルティング会社であるアリックスパートナーズでは、ライブドア、JAL等の再生案件を担当。
2010年弁護士登録。南青山M's法律会計事務所を経て、2014年に青山東京法律事務所を開設。2018年、税理士登録。
現在、名古屋商科大学経営大学院(MBA)教授として企業再生論、経営戦略論の講義を行う他、Jトラスト株式会社(東証スタンダード市場)等数社の監査役も務める。