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相続・遺産分割-経営者の相続

中小企業の社長が亡くなったとき、親族としては、何も一番心配しなければならないのでしょうか。法律の枠組みが分かっていないと、思わぬ損害を被ることがありますので、注意しておきましょう。

Ⅰ 負債の相続

中小企業の経営者が亡くなったときに、親族が最も心配しておかなければならない点は、経営者が連帯保証をしていなかったかということです。連帯保証債務は、自動的に相続人に法廷相続分に応じて分割されてしまうからです。

例えば、中小企業の経営者が1億円の自宅と5000万円の預金を持っていたとしましょう。その一方で、会社は3億円の借金をしており、経営者がその全額について連帯保証をしていたとします。

経営者(夫)の相続人が妻と子1名の場合なら、法定相続分は2分の1ずつですが、これを妻と子で協議して、妻が自宅に住み続けるから1億円の自宅を相続する、子は5000万円の預金を相続すると決めたとしましょう。この時、3億円の連帯保証は1.5億円ずつ妻と子に相続されています。

経営者が亡くなった時点では、経営がうまくいき借金の返済に滞っていなかったとしても、その後どうなるかはわかりません。子が引き継げば家族で情報を共有し、会社の経営が悪くなったときに早めの対応をすることも可能になりますが、子がすでに別の会社に勤めており、親の会社を引き継ぎたくないという場合には要注意です。

会社を夫が信頼していた部下に譲ってみたが、亡くなった経営者の力があまりに大きかったので、その穴埋めができない、経営が徐々に悪化していき、ついに借金の返済に滞るという事態が生じる可能性があります。

また、部下の経営能力に問題がなかったとしても、コロナウィルスによるパンデミックのような想定外の事態が生じて、営業がとまり、会社が危機に陥り、返済に滞るという事態も考えられます。

こうしたことになると、銀行は妻や子に対して、連帯保証の履行を求めてくることになります。短期間で返済に行き詰まるという事態は通常考えられないので、経営者が死亡してから、5年、10年とたってから、こうした事態が起きてきます。

当然、妻や子はびっくりです。会社の経営を夫が信頼していた部下に任せたのに、なんでこんなに時間がたってから、自分たちに連帯保証の履行が求められるのかと。

Ⅱ 経営者の負債を引き継がないための対策

こうした事態を避けるためには、部下に引き継いだ時に、連帯保証人を差し替えるように銀行と交渉し変更契約を結んでおくことですが、通常、サラリーマンをやってきた部下は、連帯保証人になることに同意しないものです。

会社を、今はやりのM&Aで第三者に譲渡し、連帯保証を引き継いでもらえればよいのですが、それは会社の経営状況次第です。借金を多すぎる、経営者を失ったことで経営が不安定になっているという場合には、譲り受けてくれる第三者が現れません。

ですから、こうした事態が予想される時には、相続放棄を選択しなければいけなくなります。

中小企業の経営者は、自分が死んだときに妻や子が相続放棄をしなければならなくなる事態が想定されるなら、生前から妻に老後に必要な財産を分けておく、経営者を被保険者とする生命保険に入って、自分が死んだときには妻や子に保険金が入るようにしておく(相続放棄をしても保険金はもらえます)等の対応をしておかなければなりません。

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監修者

植田統

植田 統   弁護士(第一東京弁護士会)

東京大学法学部卒業、ダートマス大学MBA、成蹊大学法務博士

東京銀行(現三菱UFJ銀行)で融資業務を担当。米国の経営コンサルティング会社のブーズ・アレン・アンド・ハミルトンで経営戦略コンサルタント。 野村アセットマネジメントでは総合企画室にて、投資信託協会で専門委員会委員長を歴任。その後、レクシスネクシス・ジャパン株式会社の日本支社長。 米国の事業再生コンサルティング会社であるアリックスパートナーズでは、ライブドア、JAL等の再生案件を担当。

2010年弁護士登録。南青山M's法律会計事務所を経て、2014年に青山東京法律事務所を開設。2018年、税理士登録。

現在、名古屋商科大学経営大学院(MBA)教授として企業再生論、経営戦略論の講義を行う他、Jトラスト株式会社(東証スタンダード市場)等数社の監査役も務める。

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