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建設業において施主とのトラブルを避けるには、請負契約締結時点の説明が重要
建設会社が、きれいに仕上がったと思っているのに、施主から「思っていたより狭い」、「期待していたより、安っぽい、高級感がない」、「デザインがイメージと違う」等など、想像もしていなかったような不満が出てきます。
建設会社としては、「どうして?」というところなのですが、往々にして、その原因は、最初の請負契約締結時の説明不足、その結果としての建設会社と施主との期待値、理解度の相違にあります。
建設会社には、今回の建築は100回目、200回目の仕事ですが、施主にとっては、一生で初めての建築工事という場合がほとんどでしょう。施主が法人であっても、担当者は人事異動で動いていきますから、何度もビルを建てた、内装工事を行った経験のある人はほとんどいません。
この結果、施工内容に対する経験値は100:1とか100:2とかになっているので、理解度も100:1とか100:2とかになっているのです。その上、施主によっては、自分なりの期待、独特の考え方を持っている方も多く、相互のコミュニケーションがすれ違っている場合が非常に多いのです。
目次
1 工事請負契約書締結までの流れ
工事依頼から契約書締結までは、以下の4ステップで進んでいくことになります。
- 1)発注者から受注者に見積もりを依頼する
- 2)受注者から発注者に見積もりを提示する
- 3)発注者が納得いかなければ双方で調整する
- 4)双方合意できたら工事請負契約書を締結する
こうした何回かのやり取りの結果、双方合意ができたと思って工事請負契約書の締結に至るのですが、実は、お互いの期待値が違うところ、理解が一致していないところが多数残されています。
建設会社としては、同じ文字を読んでも、施主の理解の仕方が違っている可能性に、よく注意を払っておくことが大切です。
そして、どうも施主がこちらの話した内容をちゃんと理解できていないようだと思うときには、かみくだいた言葉でもう一度説明をしておくことが必要でしょう。
2 工事請負契約書の説明
建設業法では、工事請負契約書で、次の14項目を明確に定めるように規定しています。
契約時点で、契約書の読み合わせするのですが、それでも本当の意味で理解をしないままに、調印に至ってしまうことがあります。建設会社とすれば、後日のトラブルを避けるためには、わかりにくそうなところでは、文面を読み上げるのをストップして、「具体的には、○○ということです」、「この点が守れなかった場合には、△△の問題になります」と、施工の場面を想定しながら、建設の素人である施主にもわかりやすい説明を心がけていくことが必要です。
- ①工事内容
- ②請負代金の額
- ③工事着手の時期/工事完成の時期
- ④請負代金支払時期・方法
- ⑤工事の延期・中止の申し出があった場合の工期の変更、請負金額の変更、損害の負担とそれらの算定方法
- ⑥不可抗力による工期の変更、損害の負担とその算定方法
- ⑦価格の変動・変更に基づく請負金額/工事内容の変更
- ⑧工事により第三者が損害を受けた場合の賠償金負担
- ⑨注文者が工事に使用する資材や建設機械などを提供する場合、その内容と方法
- ⑩注文者による検査の時期・方法/引渡しの時期
- ⑪完成後の請負代金の支払の時期・方法
- ⑫契約不適合責任とそれに対する保証保険契約を締結する場合はその内容
- ⑬履行の遅滞、債務不履行があった場合の遅延利息、違約金その他の損害金
- ⑭契約に関する紛争の解決方法
3 設計図、見積書の重要性
以上が工事請負契約書の内容ですが、具体的な工事の内容は設計図を見て初めてイメージがわいてきます。コストについては、何にいくらかかっているかを積算した見積書を見ることで初めて工事請負代金が適正なものであるのかどうかを確認できます。
それにもかかわらず、現実には、設計図が添付されていても、大雑把なものであることが非常に多いという現実があります。建設会社の中には、細かいところは現場の作業員や下請に任せてしまおうという考え方を持っているところもあります。
最近、特に重要になってきた設備工事などは、元請けの建設会社に知識が不足している場合も多く、下請の設備会社に丸投げしてしまう傾向も見られます。
その結果、見積書も、大雑把な計上となっているものが多く、「○○一式」という計上の仕方で、具体的にどういう部品をいくつ使い、その単価がいくらで計算されているかということがわからないようになっているものも見受けられます。
こうした大雑把な、悪く言えばいい加減な設計図や見積書では、どういう施工内容であるのか、どういう部品を使った施工であるのかがわからない状態になっています。せっかく契約をしているのに、その内容が一義的に決まっていない、いかようにでも解釈されるという状況になっています。
その結果、工事が完成しても、最初の予定どおりに施工されたのか、追加変更があったのか、部材等についても、当初予定されていた部材を使ったのか、変更して高いものに変えたのかがわからなくなってしまっています。これが、追加変更工事による代金の増額請求に関するトラブルの大きな原因となっています。
つまり、工事請負契約を締結する時点で、詳細まで詰めた設計図と見積書を添付し、それを十分に説明しておくことが、施主とのトラブルを避ける近道なのです。
4 施主とのトラブルが起こったら、早めに弁護士へ相談を
不幸にも施主とのトラブルが発生した場合、まずは、会社で誠心誠意の対応をし、円満な解決を図ることが大切です。
ただ、話がこじれた場合、社員には多大な負担がかかってきます。中には、理不尽なことを言われる場合もあり、社員としては、施主の機嫌を損ねず、いかにしてトラブルを解決するかを考え、精神的に参ってしまう人が出てきます。
こうした場合には、施主とのトラブル解決に経験のある弁護士に依頼すれば、会社の代理人として、会社の意向を反映して動いてくれますので、社員の負担軽減につながります。
弁護士が出ていった場合の方が、施主も聞く耳を持ってくれる場合が多く、円満なトラブルの解決につながるものと思います。
監修者
植田 統
1981年、東京大学法学部卒業後、東京銀行(現三菱UFJ銀行)に入行。
ダートマス大学MBAコース留学後、ブーズ・アレン・アンド・ハミルトンで経営戦略コンサルティングを担当。
野村アセットマネジメントで資産運用業務を経験し、投資信託協会で専門委員会委員長を歴任。
レクシスネクシス・ジャパン株式会社の社長を務め、経営計画立案・実行、人材マネジメント、取引先開拓を行う。
アリックスパートナーズでライブドア、JAL等の再生案件、一部上場企業の粉飾決算事件等を担当。
2010年弁護士登録後、南青山M's法律会計事務所に参画。2014年に青山東京法律事務所を開設。2018年、税理士登録。
現在、名古屋商科大学経営大学院(MBA)教授として企業再生論、経営戦略論を講義。数社の社外取締役、監査役も務める。