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Ⅰ 取締役会の運営-執行役と執行役員の違い

1.執行役とは

「執行役」について説明する前提として、まず3つの会社のガバナンス形態について説明します。

 

上場会社のコーポレート・ガバナンスの形態をして、次の3つがあります。監査役会設置会社、指名委員会等設置会社、監査等委員会設置会社です。

 

このうち、取締役と監査役の双方を選任するのは監査役会設置会社で、取締役のみ選任するのが、指名委員会等設置会社と監査等委員会設置会社では取締役です。監査等委員会設置会社では、取締役と監査等委員兼務の取締役とを分けて選任することとされています。

 

この3つの形態の中で、「執行役」がいるのは、指名委員会等設置会社です。取締役会で選任することとされています。

 

ですので、執行役は会社法上の役員ではありませんが、取締役会から委任を受けて、本来は取締役会の権限である業務執行の決定(一部の重要事項除く)と、業務の執行を行うことになっています。

 

執行役が複数名いるときは代表執行役も選任されます。このように、指名委員会等設置会社においては、執行役が取締役会の委任を受けて経営者として会社を運営するという形になっています。

 

指名委員会等設置会社の取締役会は、会社法上執行役に委任できないこととされている重要事項の決定(例えば経営方針の策定や株主総会の議案内容の決定)と、執行役の業務執行に関する監視・監督を行う機関となります。

 

このように取締役会が経営をモニターする機関として主に機能するため、指名委員会等設置会社の機関形態は、モニタリングモデルと呼ばれています。執行役は英米法におけるExecutive officer(またはofficer)の和訳です(取締役会はBoard of directorsという)。なお、執行役は取締役を兼務することも可能です。

2.執行役員とは

「執行役員」は会社法には一切の規定がありません。

 

しかし、実際に、監査役会設置会社と監査等委員会設置会社で任意に執行役員を置かれているケースが多く見られます。執行役員は、言葉の通り経営を執行する役割を負っており、委員会等設置会社の執行役と同じ役割を負っています。

 

コーポレートガバナンス・コードではこれらの機関形態の会社でも、委員会設置会社と同様、取締役で構成される任意の組織である指名委員会や報酬委員会を設置することが推奨されており、執行役員の設置と併せて考えてみると、疑似的にモニタリングモデルを実現していると言えます。

 

改めて会社法の想定したコーポレート・ガバナンスの仕組みを考えてみると、取締役の職務は取締役会に参加することを通じて、重要な業務執行の決定を行い、業務執行の監督を行うことであり、業務を執行する権限が法律上付与されているわけではありません。

 

取締役の地位を有する者が業務執行するには、代表取締役となるか、副社長取締役や専務取締役などの業務執行取締役となるか、あるいは部長兼務といった使用人兼務取締役となるかという方法を取らざるを得ません

 

したがって、取締役として選任されることと、職務として業務執行に関与することとは別のことであって、取締役ではない専務執行役員や常務執行役員がいてもおかしくはないということになります。

 

こう考えてくると、執行役と執行役員が全く同じものと見えてきますが、指名委員会等設置会社では、法定されている取締役会権限を執行役に委任することができますが、監査役会設置会社、監査等委員会設置会社では、執行役員に対して法定されている取締役会権限を委任することはできません。執行役員の権限は、執行役に比べて大幅に制限されています。

 

しかし、この点は取締役と執行役員の多くがオバーラップし、取締役会を機動的に開催することができるのであれば必ずしもデメリットとはなっていません。

3.執行役員制度を利用する会社が増えている理由

ここまで見てきたように、委員会等設置会社とならなくても、執行役員を任命することで業務執行を分離し、取締役会がそれを監督するというガバナンスの仕組みを作り。外部からの経営と執行の分離の要請に答えることができます。

 

その上、委員会等設置会社では、かならず指名委員会、報酬委員会を設置しなければならず、代表取締役社長が指名権限、報酬決定権限を手放さなければいけなくなるのに対し、監査役会設置会社が設置する執行役員制度なら、指名委員会、報酬委員会を設置する必要もない点で、代表取締役社長には受け入れやすい制度です。これが、執行役員制度を利用する会社が急増している理由です。

監修者

植田統

植田 統

1981年、東京大学法学部卒業後、東京銀行(現三菱UFJ銀行)に入行。
ダートマス大学MBAコース留学後、ブーズ・アレン・アンド・ハミルトンで経営戦略コンサルティングを担当。
野村アセットマネジメントで資産運用業務を経験し、投資信託協会で専門委員会委員長を歴任。
レクシスネクシス・ジャパン株式会社の社長を務め、経営計画立案・実行、人材マネジメント、取引先開拓を行う。
アリックスパートナーズでライブドア、JAL等の再生案件、一部上場企業の粉飾決算事件等を担当。
2010年弁護士登録後、南青山M's法律会計事務所に参画。2014年に青山東京法律事務所を開設。2018年、税理士登録。
現在、名古屋商科大学経営大学院(MBA)教授として企業再生論、経営戦略論を講義。数社の社外取締役、監査役も務める。

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