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建設業における現場代理人の役割

1 現場代理人とは

現場代理人とは、工事現場を総合的に管理する人のことを言います。工事現場に常駐して現場の運営・取り締まりを行うほか、各関係者との協議にも対応し、工事契約上の請負人の代理として、工事契約に関する権限を行使しています。工事現場での司令塔だと言ってもいいと思います。

 

 ところが、不思議なことに、建設業法で現場代理人の設置を義務づけているものではなく、「現場代理人を置く場合には発注者に必要事項の書面通知を行うこと」のみが定められています。

 

つまり、設置するかどうかは、各契約で決められることとなっており、例えば、公共工事については、「公共工事標準請負契約約款」において、現場代理人の設置と常駐が義務付けられています。

 

資格要件も定まっていないので、同じ現場であれば、現場代理人と主任技術者は兼務が可能となっています。

 

2 現場代理人の役割

(1)工程管理

現場代理人の主要な業務としてまず挙げられるのが、工程管理です。

工程管理とは、あらかじめ決まっている工期に間に合うよう、工程表を作成して各作業を管理する業務のことをいい、作業に遅れが出た場合には、スケジュールを見直して調整を行います。作業を計画通りに進めるため、現場の作業員に対して指示を出すことも、現場代理人の重要な仕事です。工程管理を適切に行えないと、工期に間に合わず、トラブルや追加コストが発生する恐れがあるので、現場代理人の役割は重大です。

 

(2)労働管理

労働管理とは、工事現場で働く作業員や関係者の「労働」について管理する業務のことです。

具体的には、作業員や関係者一人ひとりの労働時間や休日、給与などを管理し、「長時間労働は発生していないか」「休日が取れていない人はいないか」「給与は適切に支払われているか」などを確認します。また、工事現場の安全を守るためのルール作りや禁止事項の設定も、労働管理の一環となっています。

 

(3)安全管理

現場での安全管理も、現場代理人が担います。

安全管理とは、工事現場を安全な環境に整備する業務のことを指し、建材や機器などを適切に管理・配置したり、状況に応じて作業員の安全確認をしたり、事故に備えた安全対策を行うことを言います。

 

(4)関係者との協議

工事現場であらゆる管理を行うだけでなく、会社を代表して関係者との協議を行うことも現場代理人の業務の一つです。発注者との交渉や近隣住民のクレームへの対応も、これに含まれます。

 

3 専任技術者・主任技術者・監理技術者との違い

現場代理人と混同されやすい仕事に、専任技術者や主任技術者、監理技術者がありますが、それぞれ役割や必要な資格が異なります。

 

(1)専任技術者

専任技術者とは、建設業者が建設業許可を受けるために、各営業所に設置しなければならない技術者のことを言います。

専任技術者の役割は、工事の請負契約の締結・履行を技術面からサポートすることで、専任技術者になるためには、規定の国家資格の取得や学歴、実務経験などといった要件を満たしている必要があります。

 

(2)主任技術者

主任技術者とは、請負金額の大小にかかわらず、各工事現場に必ず設置しなければならない技術者のことを言い、工事現場における総合的な管理業務を担っています。現場監督と呼ばれることもあります。

 

主任技術者になるためにも、規定の国家資格の取得や実務経験などといった要件を満たしている必要があります。

 

(3)監理技術者とは

監理技術者とは、発注者から直接工事を請け負い、その工事を施工するために4,500万円(建築一式工事の場合は7,000万円)以上を下請け契約する際に設置しなければならない技術者のことを言い、主任技術者と同様、工事現場の総合的な管理を行い、現場監督と呼ばれることもあります。

 

監理技術者になるためにも、規定の1級国家資格の取得や実務経験などといった要件を満たしている必要があります。

 

(4)現場代理人との違いは法的設置義務や資格要件の有無

現場代理人と専任技術者・主任技術者・監理技術者の違いは、法的設置義務や資格要件の有無にあり、現場代理人に法的設置義務はありません。実際には、各工事における契約をもとに設置されており、専任技術者や主任技術者、監理技術者のように、法律によって設置義務が定められているわけではありません。ですので、現場代理人になるために特別な資格要件もありません。

 

4 現場代理人の重要性

現場代理人は、工事を請け負った会社を代表して、工事現場の総合的な管理を行う仕事であり、工事を円滑に進めるための工程管理、適切な労働を徹底するための労働管理、現場の安全を確保するための安全管理を担っていますので、現場においてはきわめて重要な役割を果たしています。

 

工事のスムーズな進行、下請との調整、近隣住民との協議などのためにも、経験豊富な現場代理人を育成していくことが建設会社に求められています。

 

5 弁護士の協力を得て、現場代理人の役割を明確化しておこう

 このように現場代理人は、現場では会社を代表して重要な仕事を行っているのですが、実際には、現場代理人自身が、自分の職務を工程管理だと思い込み、その他の職務をないがしろにしているケースが多々見受けられます。

 

特に、現場で追加変更工事が生じた場合には、元請けの現場代理人から下請けへの指示が出されるのですが、その場合も工程管理に注意が集中してしまい、予算管理が頭の中から抜け落ちており、後日、追加変更工事の代金についてトラブルが生じるというケースが発生しています。

 

建設会社としては、このあたりの認識がどうしても甘くなりがちなので、建設業に詳しい弁護士に相談し、現場代理人の役割の説明を受け、現場代理人の役割の設定、評価のあり方、育成方法等を足元からもう一度見直してみるとよいのではないでしょうか。

 

監修者

植田統

植田 統

1981年、東京大学法学部卒業後、東京銀行(現三菱UFJ銀行)に入行。
ダートマス大学MBAコース留学後、ブーズ・アレン・アンド・ハミルトンで経営戦略コンサルティングを担当。
野村アセットマネジメントで資産運用業務を経験し、投資信託協会で専門委員会委員長を歴任。
レクシスネクシス・ジャパン株式会社の社長を務め、経営計画立案・実行、人材マネジメント、取引先開拓を行う。
アリックスパートナーズでライブドア、JAL等の再生案件、一部上場企業の粉飾決算事件等を担当。
2010年弁護士登録後、南青山M's法律会計事務所に参画。2014年に青山東京法律事務所を開設。2018年、税理士登録。
現在、名古屋商科大学経営大学院(MBA)教授として企業再生論、経営戦略論を講義。数社の社外取締役、監査役も務める。

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