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Ⅵ 事業承継・M&A-会社分割の利用

親が経営していた会社の承継者となる兄弟が複数いるというケースがありますが、多くの場合、兄が多少多めの株式を相続して社長となり、弟が少なめの株式を相続して、副社長又は専務・常務という形でナンバーツーとして、事業を承継します。

 

しかし、兄弟仲が悪いという場合には、一つ屋根の下での経営がうまくいくはずもなく、それなら、兄と弟で会社を分けて承継することができないかという相談を受けることが多くなっています。

 

その場合に使えるのが、会社分割という方法です。

 

ただし、親が亡くなり相続が起こってからでは、どのように分けるかで紛糾してしまいますので、親が元気なうちに、会社を2つに分けておく必要があります。

1 会社分割のしくみ

(1) 会社分割とは

会社分割とは、株式会社や合同会社が事業の権利義務の全部もしくは一部を他の会社に承継させる組織上の行為をいいます。。

 

会社分割により事業を承継する会社が、新たに設立される会社である分割を「新設分割」といい、既存の会社(承継会社)である分割を「吸収分割」といいます。

 

事業承継で活用する会社分割は、新設分割(もしくは、新会社を設立し、その会社が事業を承継する吸収分割)であり、既存の会社を2人の承継者に分けやすくするためのものです。

(2) 会社分割の類型

① 分社型分割と分割型分割

 

会社分割には、分割の対価を誰に支払うのかという区分もあり、この場合、会社分割は、大きく「分社型分割」と「分割型分割」の2つに分けられます。

 

「分社型分割」は承継会社がその対価として株式を分割会社に割り当てる形式、「分割型分割」は設立会社または承継会社の株式を分割会社の株主に発行する形式です。

 

相続時に2人の承継者に会社を承継させるには、「分割型分割」によって会社を分け、遺言等により、それぞれの承継者に株式を引き継がせる方法が適しています。

2  税制適格と税制非適格

分割型分割を行った場合の分割会社の株主は、原則、発行された新株の価額が投資金額(資本金等の額)を超える部分について、配当課税が発生します(いわゆる「みなし配当課税」)。

 

また、分割により、承継会社へ資産、負債を移転したときは、会社分割を行った時の価額で売却(譲渡)したものとして、その分割会社の所得の計算上、譲渡益が認識されます。

 

ただし、税制適格要件として、以下のすべてを満たしている場合は、税制適格会社分割に該当し、株主への配当課税や分割会社の譲渡益課税は繰り延べられます。

税制適格要件

  1. 金銭不交付要件
    設立会社または承継会社の株式のみの交付を行う。
  2. 按分型要件
    対価は、設立会社または承継会社の株式数の割合に応じて発行する必要がある。
  3. 継続保有要件
    会社分割後も継続して同一の者(その個人だけでなくその個人の親族も含まれる)による保有が見込まれる。

税制適格要件とは、会社分割をして会社を分けていても、株主にとっては会社分割前の株主であった状況と大きく変わらないため、過度な税負担を課さないように配慮された税制です。

3 共同経営と会社分割のメリット・デメリット

兄弟で一つの会社の株式を相続する場合、兄弟での株式共有による共同経営ということになります。

 

メリットとして、①会社の組織再編を行わないため、業務に変化が生じないことがありますが、デメリットとして、①共同経営者同士の意思決定の合意が必要となる、②後継者の次の後継者に承継される時は、その後継者の人数により、合意ができるかが不明となる点があります。

 

一方、会社分割を利用すると、兄弟は、分割された別々の会社を経営することになります。

 

メリットとしては、①単独承継者による経営となるため、意思決定が迅速になる、②次の事業承継もスムーズにいくことがあります。デメリットとしては、①会社を2つに分けるため、業務内容に変化が生じる、②複雑な法的手続きを行わなければならないことがあります。

4 会社分割を行う際の留意点

親の生前に会社分割を行う場合は問題ありませんが、2人の子が引き継いだ後に会社分割を行う場合は、注意が必要です。

 

会社分割を行った場合で税制適格要件を満たすためには、按分型として現在の持株比率に応じた新株の発行を行う必要があります。つまり、兄弟で、分割前の会社の株式を3:2で持ち合っていれば、分割された会社の株式も3:2の比率で持つことになります。兄が経営する会社の株式比率、弟が経営する会社の株式比率が、兄:弟=3:2となってしまうのです。

 

これを解消するためには、兄が経営する会社については、弟が2を兄の譲渡し、弟が経営する会社については、兄が3を弟に譲渡しなければなりません。その場合は、個人が株式を売却することになりますので、売却価格と取得費の差額の譲渡益に譲渡所得税等が発生します。

監修者

植田統

植田 統

1981年、東京大学法学部卒業後、東京銀行(現三菱UFJ銀行)に入行。
ダートマス大学MBAコース留学後、ブーズ・アレン・アンド・ハミルトンで経営戦略コンサルティングを担当。
野村アセットマネジメントで資産運用業務を経験し、投資信託協会で専門委員会委員長を歴任。
レクシスネクシス・ジャパン株式会社の社長を務め、経営計画立案・実行、人材マネジメント、取引先開拓を行う。
アリックスパートナーズでライブドア、JAL等の再生案件、一部上場企業の粉飾決算事件等を担当。
2010年弁護士登録後、南青山M's法律会計事務所に参画。2014年に青山東京法律事務所を開設。2018年、税理士登録。
現在、名古屋商科大学経営大学院(MBA)教授として企業再生論、経営戦略論を講義。数社の社外取締役、監査役も務める。

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