企業が競争に打ち勝っていくためには、自社のブランドを確立し、自社の技術力を保護することが必要です。しかし、一方で競争力のない企業の中には、他社のブランドや技術を盗用するところがあります。企業としては、こうした知的財産権を侵害する動きに目を光らせ、違法行為にあった場合には、速やかに対応していくことが必要です。
①知的財産権その1:商標権の侵害
②知的財産権その2:著作権の侵害
③知的財産権その3:特許権の侵害
④知的財産権その4:実用新案権の侵害
⑤知的財産権その5:意匠権
⑥知的財産権その6:不正競争防止法による対応
①知的財産権その1:商標権の侵害
商標とは、商品やサービスにつけるマークのことです。社名やロゴマークが典型的なものです。コカ・コーラやカルピス、ヤマト運輸のクロネコのイラスト等です。商標は、商品やサービスを顧客に認知させる機能があるので、それを真似されてしまうと、顧客の中には誤認して他の商品やサービスを購入してしまう人が出てきます。こうした事態が起こらないようにするために、商標権の登録を行います。商標登録をしておけば、他の会社が類似のマークを使っている場合に、その使用を差し止めたり、損害賠償請求をすることができます。
商標権の侵害と言っても色々な場合があります。偽ブランド品の場合には、顧客を欺いて偽ブランドを高く売りつけ、金儲けを企んでいます。たちの悪い相手ですから、弁護士に頼んで使用をやめるように警告しても言う事を聞きません。民事裁判を起こして、差止請求をする、損害賠償請求をするという方法も考えられますが、最終的には、刑事告訴し、警察・検察に動いてもらうしかないでしょう。
こうした悪質性がなく、相手が誤って類似商標を使ってしまったという場合もあります。弁護士に依頼して警告書を送ってもらえば、すぐに類似商標の使用を取りやめてもらえるケースも多くあります。
②知的財産権その2:著作権の侵害
著作物とは、自分の考えや気持ちを言葉や文字、形や色、音という形で表現したものです。小説、論文、作文、音楽、美術、写真、アニメ、プログラム等多くのものが含まれます。そして、著作権は、商標権と違い、登録をしなくても、著作を完成させることで、自動的に発生します。
著作権は、著作者人格権と著作権(財産権)の2つに分かれます。著作者人格権とは、著作者が著作物を公表するかどうかを決める権利(公表権)、自分の著作物に氏名を表示するか
どうかを決める権利(氏名表示権)、著作物のタイトルや内容を勝手に変えられない権利(同一性保持権)から構成されています。財産権としての著作権には、印刷、コピー、録音、録画等の複製権、著作物を直接聞かせたり、見せたりする権利である上映権、演奏権等があります。
最近では、インターネット上で他人の著作物であるマンガや映画、音楽を勝手に公開する行為、それを顧客にダウンロードさせる行為、論文や新聞記事などを自らの文章として盗用する行為等が大きな社会問題となっています。
著作権の侵害を守るためには、弁護士に頼んで行為をやめるように警告書を送るのが第一のステップとなります。その後、民事上では、差止請求や損害賠償請求をしていくことになります。また、相手が悪質な場合には、刑事告訴し、警察の捜査、検察の立件を待たなければならなくなります。
③知的財産権その3:特許権の侵害
特許権とは、自然法則を利用した発明を保護するための制度です。ノーベル賞を受賞した山中先生が発明したips細胞、本庶先生が発明したオプジーボも特許登録されています。他にも私たちが日常使っている携帯電話の通信技術や、中に入っている半導体等は特許の塊です。発明した人が特許庁に出願し、厳密な審査を経て、特許登録されます。この手続きは弁理士が行います。
特許が成立すると、特許権として登録された発明が保護されます。他の会社や個人によって、勝手に発明が使用されれば、特許権の侵害となります。ここからが弁護士の出番です。侵害した相手にその使用をやめるように警告書を出します。それでも、やめない時は、差止請求を申し立てます。差止ができた後には、無断使用について損害賠償請求訴訟を提起するという流れになります。
特許権については、会社内の研究者が行った職務発明の取扱をどうするかという問題があります。日亜化学の中村氏が青色発光ダイオードの職務発明をめぐって、会社に対して適正な対価の支払いを求めた訴訟が有名です。それまで、多くの会社では、画期的な職務発明があっても、その対価を金一封で済ませてきましたが、この裁判を契機として特許法の改正が行われ、職務発明が社員に帰属すること、会社はその取得の対価として適正な対価を支払わなければならないことが明確化されました。多くの会社では、社内規程を見直し、対価の支払い基準を見直しました。もし、まだ改正に対応していない会社があるとすれば、規程を早急に見直すことをお勧めします。
④知的財産権その4:実用新案権の侵害
実用新案権とは、鉛筆を六角形にして持ちやすくする、鉛筆のお尻に消しゴムをつける等のいわゆるちょっとした発明です。特許庁に出願して登録される点は特許権と同じです。権利が侵害された場合に、まず警告書を送付し、相手が拒絶してきた時に、差止請求、損害賠償請求訴訟を提起する点も特許権と同じです。
実用新案権は無審査主義が採用されているため、権利者は権利の有効性に関する判断材料である実用新案技術評価書を提示した後でなければ権利行使をすることができないことになっています。権利者は、これをまず提示することを忘れないようにしないといけません。もし、あなたが警告書を受け取った側だとすれば、実用新案技術評価書の提示を求めないといけません。それを見て、無効理由があると判断した時は、無効審判請求を起こします。技術的な問題は弁理士に、審判、訴訟を提起するときは、弁護士に相談されるとよいでしょう。
⑤知的財産権その5:意匠権
意匠権とは、建築物や画像のデザイン等を保護するための権利です。机やいすのデザイン、自動車のデザイン、アプリのアイコン、インターネット上の画像等がこれに当たります。特許庁に出願して登録される点は特許権と同じです。特許庁の審査がある点では特許権に近く、特許庁の審査のない実用新案権とは異なります。これについても、侵害への対応は著作権や特許権の侵害の場合と同様で、差止請求、損害賠償請求を行っていくことになります。
⑥知的財産権その6:不正競争防止法による対応
不正競争防止法は、事業者間の公正な競争を促進するための法律です。特許権や著作権等の知的財産権のように権利として保護されているわけではありませんが、以下のような行為を不正競争と定義しています。
・周知表示混同惹起行為-広く認識されている、他人の商品等と同一または類似の表示を使い、その他人の商品等との混同を生じさせる行為
・著名表示冒用行為-他人の著名な商品等の表示を、自己の商品等の表示に使う行為
・形態模倣商品の提供行為-他人の商品の形態を模倣し、これを提供する行為
・営業秘密の侵害-窃盗など不正の手段によって営業秘密を取得して、これを自ら使用または第三者に開示する行為
・技術的制限手段無効化装置等の提供行為-制限されているコンテンツの視聴・記録や、プログラムの実行を可能にする装置・プログラム・役務の提供
・ドメイン名の不正取得等の行為
・誤認惹起行為-商品等について、原産地や品質、内容等を誤認させるような表示をする行為
・信用毀損行為-積極的に他社に損害を与えるもの
・代理人等の商標冒用行為
そして、不正競争防止法は、その救済手段として、差止請求、損害賠償請求、信用回復措置請求を定めています。これが民事上の請求ですが、以下の行為に対しては刑事罰も定められています。悪質な行為に対しては、刑事告訴を行っていくことになります。
・営業秘密に係る不正競争行為
・周知表示混同惹起行為
・著名表示冒用行為
・形態模倣商品の提供行為
・技術的制限手段無効化装置等の提供行為
・混同惹起行為
・誤認惹起行為